路加傳福音書・明治訳
路加傳福音書 Luke
Inasmuch as many have taken in hand to set in order a narrative of those things which have been fulfilled among us,
1.1我儕の中に篤く信ぜられたる事を始より親く見て道に役たる者の
1.2我儕に傳し如く記載んと多の人々これを手に執る故に貴き〔テヲピロ|テヨピロ〕よ
1.3我も原より諸の事を詳細に考究たれば次第を爲て爾に書おくり
1.4爾が教られし所の確資を曉せんと欲り
1.5ユダヤの王ヘロデの時にアビアの班なる祭司ザカリアと云る者あり其妻はアロンの裔にて名をエリサベツと云
1.6共に神の前にて義人なり凡て主の誡命と禮儀を虧なく行へり
1.7エリザベツ姙なきが故に彼等に子なし又二人とも年も老ぬ
1.8ザカリアその班次に値て神の前に祭司の職を行ふ時
1.9祭司の例に從ひ籤を抽て主の殿にいり香を燒ことを得
1.10香を燒ける時に衆の人々はみな外に居て祈れり
1.11主の使者香壇の右に立てザカリアに現れしかば
1.12ザカリア之を見て驚懼る
1.13天使彼に曰けるはザカリアよ懼るる勿れ爾の祈禱すでに聞たまへり爾の妻エリサベツ男子を生ん其名をヨハネと名くべし
1.14爾に喜と樂あらん多の人も亦その生るるに因て悦び有ん
1.15それ此子主の前に大ならん又葡萄酒と濃酒とを飮じ母の胎より生出て聖靈に充さる
1.16又イスラエルの民の多の人を主なる其神に歸す可れば也
1.17彼エリヤの心と才能を以て主の先に行ん是父の心に子を慈はせ逆れる者を義人の智に歸せ主の爲に新なる民を備んとなり
1.18ザカリア天使に曰けるは我すでに年老妻もまた年邁たれば何に因てか此事あるを知ん
1.19天使こたへて曰けるは我はガブリエルとて神の前に立者なり爾に語てこの喜の音を告ん爲に遣されたれば
1.20其時いたりて必ず成べき我が言を信ぜざるに因なんぢ瘖となりて此事の成日まで言ふこと能はじ
1.21民ザカリアを俟ゐて其殿のうちに久を異む
1.22ザカリア出て言ふこと能はざりしかば彼等その殿の内にて異象を見たる事を曉たりザカリア衆人に首を以て示し竟に瘖となれり
1.23その職事の日滿ければ家に歸りぬ
1.24此後その妻エリサベツ孕て隱をりしこと五ヶ月にして
1.25曰けるは主わが耻を人の中に灑せん爲に眷顧たまふ時は此の若く我に爲り
1.26〔此|この〕六ヶ月に〔當り|當〕ガリラヤのナザレと名たる邑の
1.27ダビデの家のヨセフと云る人の聘定せし所の處女に神よりガブリエルといふ天使を遣されたり其處女の名はマリアと云り
1.28天使この處女に來いひけるは慶し惠るる者よ主なんぢと偕に在す爾は女の中にて福なる者なり
1.29處女その言を訝この問安は如何なる事ぞと思へり
1.30天使いひけるはマリアよ懼るる勿れ爾は神より惠を得たり
1.31爾孕て男子を生ん其名をイエスと名べし
1.32かれ大なる者と爲て至上者の子と稱られん又主たる神その先祖ダビデ王の位を彼に予れば
1.33ヤコブの家を窮なく支配すべく且その國終ること有ざるべし
1.34マリア天使に曰けるは我いまだ夫に適ざるに何にして此事ある可や
1.35天使こたへて曰けるは聖靈なんぢに臨る至上者の大能なんぢを庇ん是故に爾が生ところの聖なる者は神の子と稱らるべし
1.36それ爾の親戚エリサベツ彼も年老て男子を孕り素姙なき者と稱れたりしが今すでに孕て六ヶ月になりぬ
1.37蓋神に於は能ざる事なければ也
1.38マリア曰けるは我は是主の使女なり爾の言る如く我に應かし天使つひに彼を去り
1.39當時マリア起て亟かに山地なるユダの邑に往
1.40ザカリアの家に入てエリサベツに問安したりしに
1.41エリサベツ、マリアの問安を聞しかば其胎孕腹の内にて跳動たりエリサベツ聖靈に感され
1.42大聲に呼いひけるは女の中にて爾は福なる者なり亦孕る所の者も福なり
1.43わが主の母われに來われ何に由てか此事を得し
1.44夫なんぢの問安の聲わが耳に入しとき胎孕よろこびて我腹の中に跳れり
1.45主の言を信ぜし者は福なり蓋主の語たまひし如く必ず成べければ也
1.46マリア曰けるは我心主を崇め
1.47我靈はわが救主なる神を喜ぶ
1.48是その使女の卑微をも眷顧たまふが故なり今よりのち萬世までも我を福なる者と稱べし
1.49それ權能を有たまへる者われに大なる事を成り其名は聖
1.50その矜恤は世々かれを畏るる者に及ばん
1.51〔其|その〕臂の力を發して心の驕る者を散し
1.52權柄ある者を位より下し卑賤者を擧
1.53飢たる者を美食に飽せ富る者を徒く返らせ給ふ
1.54アブラハムと其子孫を窮なく憐むことを忘ずして
1.55其僕イスラエルを扶持たまへり是われらの先祖に言たまひしが如なり
1.56マリア、エリサベツと居しこと三ヶ月ばかりにて己が家に歸たりき
1.57偖エリサベツ産期みちて男子を生り
1.58その隣里の者また親戚のもの主がエリサベツに大なる慈悲を垂たまひし事を聞て偕に喜べり
1.59第八日に及びければ彼等子に割禮せんとて來り其父の名に因ザカリアと名んとせしに
1.60其母こたへて然す可らずヨハネと名べしと曰ければ
1.61彼等エリサベツに對て曰けるは爾が親戚の中に此名を名し者なし
1.62彼ら遂に其父に頭にて示いかに名んと欲か問たるに
1.63ザカリア寫字板を請て其名はヨハネと書しるししかば皆奇めり
1.64ザカリアの口ただちに啓て舌とけ言ひて神を頌たり
1.65その隣里に住たる衆人みな懼ぬ又すべて此事を徧くユダヤの山地に傳播されしかば
1.66聞もの皆これを心に藏て此子は如何なる者にか成んと曰り偖主の手かれと共に在き
1.67父ザカリア聖靈に感され預言して曰けるは
1.68主なるイスラエルの神は讚美べき哉これ其民を眷顧て贖を爲し
1.69我儕の爲に拯救の角を其僕ダビデの家に挺たまへば也
1.70古より聖なる〔預言者|預言者〕の口を以て言たまひしが如し
1.71即ち我儕を敵また凡て我儕を惡む者の手より脱す救なり
1.72此は仁惠を我儕の先祖に施し又その聖約を忘じと也
1.73是我儕の先祖アブラハムに立し所の誓にして
1.74我儕を敵の手より救ひ我儕の生涯を
1.75聖と義に於て懼なく主に事しめんと也
1.76嬰兒よ爾は至上者の〔預言者|預言者〕と稱られん蓋なんぢ主に先ちて行その路を備んと爲ばなり
1.77神の深き矜恤に頼その罪を赦されて救れん事を其民に示さんため也
1.78その矜恤に頼て旭の光上より
1.79幽暗と死蔭に住る者を照し我儕の足を導きて平康なる路に至せんとて臨めり
1.80斯て嬰兒は漸成長し精神ますます強健にしてイスラエルに顯るるの日まで野に居り
2.1當時天下の戸籍を査る詔命カイザル・アウグストより出たり
2.2この戸籍調査はクレニオ、スリヤを管理し時の初次に行はれたりし也
2.3人みな戸籍に登んとて各その故邑に歸たり
2.4ヨセフもダビデの宗族又血統なれば戸籍に登んとて
2.5已に孕る其聘定の妻マリアと共にガリラヤの邑ナザレより出てユダヤに上りダビデの邑ベテレヘムといふ所に至れり
2.6此に居て産期滿ければ
2.7冢子を生それを布に裹て〔槽|槽〕に臥せたり此は客舍に彼等の居處なかりしが故なり
2.8近傍に羊を牧もの有けるが野に居て夜間その群を守たりしに
2.9主の天使きたりて主の榮光かれらを環照ければ牧者おほいに懼たり
2.10天使これに曰けるは懼ること勿れわれ萬民に關りたる大なる喜の音を爾曹に告べし
2.11それ今日ダビデの邑に於て爾曹の爲に救主うまれ給へり是主たるキリストなり
2.12爾曹布にて裹し嬰兒の〔槽|槽〕に臥たるを見ん是〔其|その〕徴なり
2.13倏ち衆の天軍あらはれ天使と共に神を讚美て曰けるは
2.14天上ところには榮光神にあれ地には平安人には恩澤あれ
2.15天使等かれらを離て天に行ければ羊を牧もの互に曰けるは率〔ベテレヘム|ベツレヘム〕にゆき主の示し給へる其有し事を見んとて
2.16急ぎ至りマリアとヨセフまた槽に臥したる嬰兒に尋遇り
2.17既に見て此子につき天使の語し事を傳播ければ
2.18聞者みな羊を牧者の語る事を奇みたり
2.19マリアは凡て是等の言を心に記て思想しぬ
2.20羊を牧者その見聞せる所みな己に語し所の如なるにより神を崇かつ讚美て返れり
2.21子に割禮を行ふべき八日の日いたりければ其いまだ胎に寓ざる先に天の使者の稱し如く名をイエスと稱たり
2.22モーセの律法に循ひて潔の日滿ければ嬰兒を携て主に獻んが爲エルサレムに上れり
2.23是主の例に初に生るる男子は主の聖者と稱べしと録されたるが如し
2.24また主の律法に斑鳩一雙あるひは雛鴿二を献ふべしと言るに循ひて祭を行ん爲なり
2.25偖エルサレムにシメオンと云る人あり斯人は義かつ敬ありてイスラエルの民の慰められん事を俟る者なり聖靈その上に臨り
2.26また主のキリストを見ざる間は死じと聖靈にて示さる
2.27かれ聖靈に感じて神殿に入り兩親その子イエスを律法の例に循ひて行はんと携來りしに
2.28シメオン嬰兒を抱き神を讚美いひけるは
2.29主よ今その言に從ひて僕を安然に世をば逝せ給ふ
2.30我目すでに萬民の前に設たまひし救を見たり
2.31これ異邦人を照さん光なり
2.32また爾の民イスラエルの榮なり
2.33その父母は嬰兒に就て語る事を奇をれり
2.34又シメオン彼等を祝て其母マリアに曰けるは此嬰兒はイスラエルの多の人の頽て且興らん事と誹駁を受ん其號に立らる
2.35これ衆の心の念の露れんが爲なり又劔なんぢが心をも刺透べし
2.36アセルの支派パヌエルの女にアンナと云る〔預言者|預言者〕あり彼は甚老邁なり其處女なりしとき夫に適て七年ともに居たり
2.37この老女は齡おほよそ八十四歳の嫠なりしが殿を離ず夜も晝も斷食と祈禱を爲て神に事ふ
2.38此時この老女も側に立て主を讚美し亦エルサレムにて贖を望る凡の人に此子の事を語れり
2.39主の律法に循ひて悉く竟ければガリラヤの己が〔邑|邑〕ナザレに歸たり
2.40其子やや成長して精神強健に知慧みち神の恩寵その上に臨り
2.41偖その兩親毎年に逾越の節筵にエルサレムに往しが
2.42彼の十二歳の時また節筵の例に循ひエルサレムに上れり
2.43節筵の日卒て返往けるに其子イエス、エルサレムに留りぬ然るにヨセフと母これを知ず
2.44同行人の中に在ならんと意ひ一日程を行て親戚知音の者に尋しが
2.45遇ざりければ彼を尋てエルサレムに返り
2.46三日ののち殿にて遇かれ教師の中に坐し且聽かつ問ゐたり
2.47聞者みな其知慧と其應對とを奇とせり
2.48兩親これを見て駭き母かれに曰けるは子よ何ぞ我儕に如此行たるや爾の父と我と憂て爾を尋たり
2.49イエス答けるは何故われを尋ぬるや我は我父の事を務べきを知ざる乎
2.50然ど兩親は其語る事を曉ず
2.51イエスこれと共に下りナザレに歸て彼等に順ひ居り其母これら凡の事を心に藏ぬ
2.52イエス〔知慧|智慧〕も齡も彌増り神と人とに益愛せられたり
3.1テベリオ・カイザル在位の十五年ポンテオ・ピラトはユダヤの方伯となりヘロデはガリラヤの分封の君と爲り其兄弟ピリポはイツリア及テラコニテの地の分封の君となりルサニアはアビレネの分封の君と爲り
3.2アンナスとカヤパ祭司の長と爲たりし時ザカリアの子ヨハネ野に居て神の命令を受
3.3ヨルダンの邊なる四方の地に來り罪の赦を得させんが爲に悔改のバプテスマを宣傳たり
3.4〔預言者|預言者〕イザヤの言を載たる書に野に呼る人の聲あり云く主の道を備その徑を直せよ
3.5諸の谷は埋られ諸の山崗は夷られ屈曲たるは直く崎嶇は易せられ
3.6人々みな神の救を見ことを得んと有が如し
3.7茲にバプテスマを受んとて來れる衆人にヨハネ曰けるは嗚呼蝮蛇の裔よ誰が爾曹に來らんとする怒を避べき事を告しや
3.8然ば悔改に符る果を結べし爾曹心に我儕が先祖にアブラハム有と意こと勿われ爾曹に告ん神は能この石をアブラハムの子と爲しむべし
3.9今や斧を樹の根に置る故に凡て善果を結ざる樹は伐れて火に投入らるる也
3.10衆人ヨハネに問て曰けるは然ば我儕何を爲べき乎
3.11答て曰けるは二の衣服を有る者は有ぬ者に分與よ食物を有る者も亦然すべし
3.12税吏もバプテスマを受んとて來り曰けるは師よ我儕は何を爲べきか
3.13答て曰けるは定例の税銀の外に多く取こと勿れ
3.14兵卒も亦問て曰けるは我儕は何を爲べきや答て曰けるは人を強暴し或は誣訴ることを爲なかれ得ところの給料を以て足りと爲べし
3.15民懷望し時なれば衆人みな心にヨハネをキリストなるや否と忖度たりしに
3.16ヨハネ之に答いひけるは我は水を以てバプテスマを爾曹に施へり我より能力ある者きたらん我は其履帶を解にも足ず彼は聖靈と火を以てバプテスマを爾曹に施はん
3.17手には箕を持て其禾場を潔め麥は斂て其藏にいれ穀は滅ざる火にて燒べし
3.18ヨハネまた多端を以て勸をなし福音を民に宣傳たり
3.19さて分封の君なるヘロデその兄弟ピリポの妻ヘロデヤの事および行ふ所の凡の惡事をヨハネに責られければ
3.20猶も惡事を加へヨハネを獄に囚たり
3.21民みなバプテスマを受けるにイエスも亦バプテスマを受て祈るとき天ひらけ
3.22聖靈鴿の如き状にて其上に降ぬ又天より聲あり云なんぢは我愛子わが喜ぶ所の者なり
3.23時にイエス年おほよそ三十にして福音を宣始む人々にヨセフの子と意れ給へりヨセフの父はヘリ
3.24其父はマツタテ其父はレビ其父はメルキ其父はヤンナ其父はヨセフ
3.25其父はマタテヤ其父はアモス其父はナオム其父はエスリ其父はナムガイ
3.26其父はマアツ其父はマタテヤ其父はセメイ其父はヨセフ其父はユダ
3.27其父はヨハンナ其父はレサ其父はゼルバベル其父はシアテル其父はネリ
3.28其父はメルキ其父はアツデ其父はコサム其父はエルモダム其父はヱル
3.29其父はヨセ其父は〔エリエゼル|エリエセル〕其父はヨオレム其父はマツタテ其父はレビ
3.30其父はシメオン其父はユダ其父はヨセフ其父はヨナン其父はヱリヤキム
3.31其父はメレア其父はマイナン其父はマタツタ其父はナタン其父はダビデ
3.32其父はエツサイ其父はオベデ其父はボアズ其父はサルモン其父はナアソン
3.33其父はアミナダブ其父はアラム其父はエスロン其父はパレス其父はユダ
3.34其父はヤコブ其父はイサク其父はアブラハム其父はテラ其父はナコル
3.35其父はサルク其父はラガヲ其父はパレク其父はヘベル其父はサラ
3.36其父はカイナン其父はアパザデ其父はセム其父はノア其父はラメク
3.37其父はマトサラ其父はエノク其父はヤレド其父はマレレエル其父はカイナン
3.38其父はエノス其父はセツ其父はアダム、アダムは即ち神の子なり
4.1偖イエス聖靈に感されてヨルダンより歸り靈に導かれ野に適て
4.2四十日惡魔に試らる此諸日なにをも食ず四十日畢てのち饑たり
4.3惡魔かれに曰けるは爾もし神の子ならば此石に命じてパンと爲せよ
4.4イエス答けるは人はパンのみにて生る者に非ず唯神の凡の言に由と録されたり
4.5惡魔また彼を高山に携ゆき一瞬間に天下の萬國を示して
4.6曰けるは此すべての權威と榮華を爾に予ん我これを委任たれば我が欲む者に之を予ふべし
4.7故に若わが前に拜跪ば悉く爾の屬とならん
4.8イエス答けるはサタンよ我後に退け獨主たる爾の神に拜跪これにのみ事べしと録されたり
4.9惡魔またイエスをエルサレムに携ゆき聖殿の頂に立て曰けるは爾もし神の子ならば此より己が身を投よ
4.10そは神その使者等に命じて爾を護せん
4.11爾が足の石に觸ざるやう彼等手にて扶べしと録さる
4.12イエス答けるは主たる爾の神を試む可らずと云おけり
4.13惡魔この誘試みな畢て暫く彼を離たり
4.14イエス聖靈の能を以てガリラヤに歸しに其聲名あまねく四方の地に廣がりぬ
4.15斯て彼等が會堂にて教を爲凡ての人々に榮を得たり
4.16その長育し所なるナザレに來り常例の如く安息日に會堂に入て聖書を讀んとて立ければ
4.17〔預言者|預言者〕イザヤの書を予しにイエス其書を展て斯録れたる所を見出せり
4.18主の靈われに在す故に貧者に福音を宣傳ん事を我に膏を沃て任じ心の傷る者を醫し又囚人に釋ん事と瞽者に見させん事を示し又壓制らるる者を縱ち
4.19主の禧年を宣播んが爲に我を遣せり
4.20イエス書を捲その役者に予へて坐しければ會堂に在者みな目を注て視なせり
4.21イエス彼等に曰けるは此録れたる事は今日なんぢらの前に應り
4.22衆かれを稱讚その口より出る所の恩惠の言を奇み曰けるは此はヨセフの子に非や
4.23イエス彼等に曰けるは爾曹かならず我に諺を引て醫者みづからを醫せ我儕が聞し所のカペナウンにて行し事を自己の家郷なる此土にも行べしと云ん
4.24また曰けるは我まことに爾曹に告ん〔預言者|預言者〕その家郷にては敬重るる者に非ず
4.25われ誠を以て爾曹に告んエリヤの時三年と六ヶ月天とぢて徧地おほいなる饑饉なりし其時イスラエルの中に多の嫠ありしかど
4.26エリヤは其一人へだに遣されず只シドンなるサレパタの一人の嫠に遣されたり
4.27また〔預言者|預言者〕エリシャの時にイスラエルの中に多の癩者ありしかど其一人だに潔られず惟スリヤのナーマンのみ潔られたり
4.28會堂に在し者これを聞て大に憤ほり
4.29起てイエスを邑の外に出し投下さんとて其邑の建たる山の崖にまで曳往り
4.30然にイエス彼等の中を徑行て去ぬ
4.31ガリラヤのカペナウンと云る邑に至りて安息日ごとに衆人を教しに
4.32その言權威有ければ衆人その教に驚けり
4.33會堂に汚たる鬼の靈に憑れたる人あり大聲に喊叫いひけるは
4.34噫ナザレのイエスよ我儕なんぢと何の與あらんや爾きたりて我儕を喪すか我なんぢは誰なる乎を知すなはち神の聖なる者なり
4.35イエス之を責て曰けるは聲を出こと勿れ其處を出よ惡鬼つひに其人を衆の中に仆し傷ずして出
4.36衆人みな驚き互に語りいひけるは權威と能力を有て汚たる鬼に命ぜしかば出去り是いかなる道ぞや
4.37是に於てイエスの聲名〔徧|あまね〕く此四方の地に揚りぬ
4.38イエス會堂を出てシモンの家に入しにシモンの妻母おもき熱病を患ひ居たりき
4.39衆人之が爲にイエスに求ければ其傍に立て熱を斥しに熱退けり婦直に起て彼等に事たり
4.40日の入とき各樣の病を患たる者をもてる人々〔皆|みな〕其をイエスに携來ければ一々〔其|その〕上に手を按て醫せり
4.41惡鬼も亦多の人々を出さり喊叫て爾は神の子キリスト也と云り然に之を斥て言ふことを容ざりき惡鬼其キリストなるを識ば〔也|なり〕
4.42明旦イエス出て人なき處に往ければ衆人尋來て其離去ことを止む
4.43イエス曰けるは我〔又|また〕他の郷村にも神の國の福音を宣傳ざるを得ず蓋〔我|われ〕之が爲に〔遣|遣さ〕るれば也
4.44斯てガリラヤの諸會堂にて道を宣傳たり
5.1衆人神の道を聽んとて擠擁ける時イエス、ゲネサレの湖の濱に立て
5.2磯に二艘の舟あるを見る漁の者は舟を離て網を洗をれり
5.3其一艘はシモンの舟なりしがイエス之にのり請て岸より少許はなれ坐して舟中より衆人を教ふ
5.4教竟てシモンに曰けるは澳へいで網を下して漁れ
5.5シモン答けるは師よわれら終夜はたらきしかど所得なかりき然ど爾の言に從ひて網を下さん
5.6既に下して魚を圍ること甚だ多く網さけかかりければ
5.7いま一艘なる舟に侶を招きて來り助しめしに彼等が來し時〔其|その〕魚二艘の舟に牣て沈んばかりなりし
5.8シモン・ペテロ之を見てイエスの足下に俯て主よ我を離たまへ我は罪人なりと曰り
5.9是シモンおよび偕に在し者みな漁し所の魚の夥しきに驚ける也
5.10シモンの侶なるゼベタイの子ヤコブとヨハネも亦然りイエス、シモンに曰けるは懼るる勿れなんぢ今より人を獲べし
5.11彼等舟を岸に寄おき一切を捨てイエスに從へり
5.12イエスある邑に居しとき身ことごとく癩病を患る者ありイエスを見て俯伏ねがひ曰けるは主もし聖旨に〔かなふ|肯〕ときは我を潔なし得べし
5.13イエス手を伸〔彼|かれ〕に按て我心に〔かなへ|肯〕り潔なれと曰ければ直に癩病〔愈|いえ〕たり
5.14イエス彼を戒めて曰けるは人に告ること勿れただ往て己を祭司に示かつ潔られし爲にモーセが命ぜし如く獻物をなし證據を彼等に爲よ
5.15然どもイエスの聲名ますます揚りて許多の人々或は教を聽んとし或は病を醫れんとて集り來れり
5.16イエス常に人なき處に退きて祈り給ひき
5.17一日イエス教を爲せる時パリサイの人と教法師ガリラヤの諸郷ユダヤ、エルサレムより來て此に坐しぬ彼等の病を醫すべき主の能顯はれたり
5.18或人癱瘋を患たる者を牀に載て舁來り之を家に入イエスの前に置んと欲ども
5.19群集にて舁入べき方なかりければ屋上に升り瓦を取除て其人を牀のまま衆人の中へ縋下しイエスの前に置り
5.20イエスその信あるを見て患者に人よ爾の罪赦さると曰ければ
5.21學者とパリサイの人々心に思出けるは此褻涜ことを言者は誰ぞ神より外に誰か罪を赦すことを得ん
5.22イエスその意を知て答いひけるは何を爾曹心の中に論ずるや
5.23爾の罪赦さるといふと起て行と言と孰か易き
5.24それ人の子地にて罪をゆるすの權威あることを爾曹に知せんとて遂に癱瘋の人に我なんぢに告おきて牀をとり家に歸れと曰ければ
5.25その人衆の前にて直に起て臥居たる牀をとり神を崇て己が家に歸ぬ
5.26衆人みな駭きて神を崇かつ大に畏懼て曰けるは我儕今日奇異なる事を見たり
5.27此後イエス出てレビと云る税吏の税關に坐し居けるを見て我に從へと曰ければ
5.28レビ一切を捨おき起て從へり
5.29レビ己の家にてイエスの爲に豐盛なる筵を設しに税吏また他の人々も共に筵に坐したる者多かりければ
5.30其所の學者とパリサイの人イエスの弟子に怨言曰けるは爾曹税吏また罪ある人々と共に飮食するは何故ぞ
5.31イエス答て曰けるは廉強なる者は醫者の助を需ず惟病ある者これを需む
5.32わが來るは義人を召く爲に非ず罪ある人を召て悔改させんが爲なり
5.33彼等イエスに曰けるはヨハネの弟子は屡斷食また祈禱をなすパリサイの弟子も亦然り然るに爾の弟子飮こと食ことを爲すは何故ぞ
5.34イエス曰けるは新郎の朋友その新郎と一處に居間は之に斷食なさしむる事を得んや
5.35將來新郎と別るる日いたらん其日には斷食すべきなり
5.36譬を以て曰けるは新衣を裁取て舊衣を補ふ者あらじ若然せば新衣をも壞ひ且新より取たる布は舊ものと合ず
5.37また新酒を舊革袋に盛る者あらじ若しかせば新酒は其袋をはりさき漏出かつ革袋も壞るべし
5.38新酒は新革袋に盛べき者ぞ斯てこそ兩ながら存なれ
5.39舊酒を飮て立刻に新酒を欲者は有じ是舊は尤も好と云ばなり
6.1逾越節の二日ののち首の安息日イエス麥の畑を徑行しに其弟子麥の穗を摘これを手にて搏くらひしかば
6.2或パリサイの人かれらに曰けるは爾曹安息日に行まじき事を行は何故ぞ
6.3イエス答て曰けるはダビデおよび從に在し者の饑しとき行たる事を未だ讀ざる乎
6.4即ち神の殿に入ただ祭司の外は食まじき供物のパンを取て食かつ從に在し者にも予たり
6.5又曰けるは人の子は安息日にも主たる也
6.6また一の安息日にイエス會堂に入て教ふ此に右の手枯たる人ありければ
6.7學者とパリサイの人イエスこれを安息日に醫ならんかと窺ひぬ蓋かれを訴んと欲ばなり
6.8イエスその意を知て手なへたる人に起て中に立よと曰ければ其人おきて立り
6.9イエス曰けるは我なんぢらに問ん安息日に善を行と惡を行と又生を救ると殺と孰をか行べき
6.10遂に衆人を環視て其人に手を伸よと曰ければ彼その如せしに手すなはち愈て他の手の如くなれり
6.11彼等大に怒て如何にイエスを處んと互に議あへり
6.12當時イエス祈禱の爲に山に往て終夜神に祈れり
6.13夜明てイエス弟子を呼その中より十二人を選て之を使徒と稱く
6.14即ちペテロと名給ひしシモンその兄弟アンデレ及ヤコブとヨハネ、ピリポとバルトロマイ
6.15マタイとトマス、アルバイの子なるヤコブとゼロテと云るシモン
6.16ヤコブの兄弟のユダとイスカリオテのユダなり此ユダはイエスを賣たる者なり
6.17イエス是等と共に下て平かなる地に立しに許多の弟子と夥しき人々ユダヤの四方またエルサレム及ツロ、シドンの海邊より來集りて或は其教を聽んとし或は病を醫されん事を冀へり
6.18又惡鬼に難されたる者あり咸く醫されたり
6.19衆みなイエスに捫らんとせり是能力の其身より出て彼等を咸く醫せば也
6.20イエス目を擧弟子を見て曰けるは爾曹貧者は福なり神の國は即ち爾曹の所有なれば也
6.21爾曹いま饑たる者は福なり飽ことを得べければなり爾曹いま哭者は福なり笑ことを得べければ也
6.22人の子の爲に人なんぢらを憎また絶け詈り爾曹の名を惡しとして棄なば爾曹福なり
6.23其日には欣び踊れ爾曹天に於て賞賜大なれば也その先祖が〔預言者|預言者〕に行たりしも是の如し
6.24爾曹富者は禍なる哉すでに安樂を受ばなり
6.25爾曹飽者は禍なるかな饑んとすればなり爾曹いま笑者は禍なるかな哀み哭んと爲ばなり
6.26凡の人なんぢらを譽なば爾曹禍なる哉その先祖が僞の〔預言者|預言者〕に行たりしも是の如し
6.27我に聽ところの爾曹に告ん其仇を愛し爾曹を憎者を善し
6.28詛者を祝し虐遇者の爲に祈禱せよ
6.29人なんぢらの頬の右方を撃ば亦左方の頬を向よ爾の外服を奪ば裏衣をも禁ざれ
6.30凡て爾に求ば之に與へ爾の物を奪ば其をまた索る勿れ
6.31己人に施れんとする事は亦人にも其如く施よ
6.32己を愛する者を愛するは何の賞賜あらんや惡人にても己を愛する者は愛する也
6.33己に善を行者に善を行は何の賞賜あらんや惡人もまた是の如く行なり
6.34爾曹償るる事を得んとおもふ人に借は何の賞賜あらんや惡人も其ごとく償を得んとて亦惡人に借なり
6.35爾曹仇を愛し又善をなし何をも望ずして借與よ然ば其賞賜は大なり且至上者の子と爲ん夫上者は恩を忘るる者〔及び|および〕不善者にまで慈愛を施せば也
6.36是故に爾曹の父の憐憫の如く亦憐憫を爲べし
6.37人を〔議する|議〕こと勿れ然ば爾曹も〔議せられず|議れず〕人を罪すること勿れ然ば爾曹も罪せられず人を恕せ然ば爾曹も恕さるべし
6.38人に與よ然ば爾曹も予らるべし彼等量を嘉して搖いれ撼いれ溢るる迄にして爾曹の懷に納ん爾曹量る所の其量にて亦人に量るべし
6.39また譬を彼等に曰けるは瞽は瞽の相者をなし得るや相共に溝壑に陷らざらん乎
6.40弟子は其師に踰ず凡そ全備なる者は其師の如なるべし
6.41なんぢ兄弟の目にある物屑を見て己の目にある梁木を知ざるは何ぞや
6.42如何で己の目にある梁木を見ずして兄弟に對ひ兄弟よ爾の目にある物屑を我に取せよと云ことを得んや僞善者よ先おのれの目より梁木をとれ然ば兄弟の目にある物屑を取こと明かに見べし
6.43それ惡果を結は善樹に非ず又善果を結は惡樹に非ず
6.44凡の樹はその果に因て識る荊棘より無花果を採ず又蒺藜より葡萄を採じ
6.45善人は心の善庫より善を出し惡人はその惡庫より惡を出す蓋心に充るより口に言るる也
6.46爾曹わが言ことを行はずして何ぞ我を主よ主よと稱るや
6.47凡て我に就り我言を聞て行者を譬て爾曹に示さん
6.48其人は家を建るに土を深く堀て基礎を磐上に置るが如し洪水のとき横流その家を衝とも動すこと能ず是基礎を磐上に置ばなり
6.49聽て行はざる者は基礎なく家を土の上に建たる人の如し横流これを衝ときは其家ただちに傾れ其頽壞また甚だし
7.1イエス此すべての言を民に教畢てカペナウンに入しに
7.2ある百夫の長その愛する僕やみて死ばかりなりければ
7.3イエスの事を聞ユダヤの長老等を遣して來り僕を助け給んことを求り
7.4彼等イエスに就り切に勸いひけるは此事を求る人は善人なり
7.5我民を愛し我儕の爲に會堂を建たり
7.6イエス彼等と共に往て既や其家に近けるとき百夫の長朋友を遣して曰せけるは主よ自己を勞動こと勿れ我が家裏に入奉るは憚多し
7.7故に我なんぢの前に出も亦憚あり第一言を發たまはば我僕は愈ん
7.8蓋われ人の權威の下に屬る者なるに我下に亦兵卒ありて此に往を命ば往かれに來と命ば來る我僕に之を行と命ば即ち行が故なり
7.9イエス聞て之を奇み從へる人々を顧て曰けるは我なんぢらに告んイスラエルの中にも未だ斯る篤信に遇ざりき
7.10遣されたる者家に歸て病たりし僕を見ば已に全快をなせり
7.11翌日イエス、ナインと云る邑に往けるに許多の弟子および許多の人々も共に往り
7.12邑の門に近づきしとき舁出さるる死人あり其母は嫠にて此は獨の子なり邑の人々多これに伴ふ
7.13主嫠を見て憫み哭なかれと曰て
7.14近より其櫬に手を按ければ舁る者ども止れりイエス曰けるは少者よ我なんぢに命おきよ
7.15死たる者起て且言ひ始むイエス之を其母に予せり
7.16衆人みな懼て神を崇いひけるは大なる〔預言者|預言者〕われらの中に興る神その民を眷顧たまへり
7.17イエスの此聲名ユダヤの全國また徧く四方に揚りぬ
7.18ヨハネの弟子すべて是等の事を彼に告ければ
7.19ヨハネ二人の弟子を召て言遣しけるは來るべき者は爾なるか亦われら他に俟べき乎
7.20その二人イエスに來り曰けるはバプテスマのヨハネ我儕を爾に遣して言しむ來るべき者は爾なるか亦われら他に俟べきか
7.21此時イエス多の疾あるひは病および惡鬼に憑たる者を醫し且おほくの瞽に見ることを賜たり
7.22イエス彼等に答曰けるは爾曹が見ところ聞ところをヨハネに往て告よ夫瞽者は見跛者は行み癩者は潔り聾者はきき死し者は復活され貧者は福音を聞せらる
7.23凡そ我爲に躓かざる者は福なり
7.24ヨハネの使者さりし後イエス、ヨハネの事を衆人に曰けるは何を見んとて野に出しや風に動さるる葦なる乎
7.25然ば爾曹なにを見んとて出しや美服を衣たる人なるか文繍を衣て奢る者は王の宮に在
7.26然ば何を見んとて出しや〔預言者|預言者〕なるか然われ爾曹に告ん是〔預言者|預言者〕よりも卓越たる者なり
7.27それ爾に先ちて道を備る我使者を爾の前に遣んと録されたるは即ち此れなり
7.28我なんぢらに告ん婦の生る者のうち未だバプテスマのヨハネより大なる〔預言者|預言者〕は無されど神の國の至微者も彼よりは大なる也
7.29ヨハネに聞る庶民また税吏は其バプテスマを受て神を義とせり
7.30パリサイの人また教法師は其バプテスマを受ず自ら暴ひて神の旨に背たり
7.31然ば此代の人々を何に比へ又何に譬んや
7.32童子市に坐し互に呼て我儕笛ふけども爾曹踊ず悲歌をすれども爾曹哭ずと云に似たり
7.33蓋バプテスマのヨハネ來りてパンをも食ず酒をも飮ざれば惡鬼に憑たる者なりと爾曹いへり
7.34人の子きたりて食ふ事をし飮ことを爲ばまた食を嗜み酒を好の人税吏罪ある人の友なりと爾曹いへり
7.35然ど智慧は智慧の子に義と爲らる
7.36或パリサイの人イエスを請て共に食せん事を願ければイエス、パリサイの人の家に入て食に就り
7.37邑の中に惡行を爲る婦ありけるがイエスがパリサイの人の家に坐せるを知て蝋石の盒に香膏を携來り
7.38イエスの後にたち足下に哭き涙にて其足を濡し首の髮をもて之を拭かつ其足に口を接また香膏を之に抹り
7.39イエスを請たるパリサイの人これを見て心の中に謂けるは此人もし〔預言者|預言者〕ならば捫し者は誰なる乎又如何なる婦なる乎を知ん此婦は惡行を爲る者なり
7.40イエス之に答て曰けるはシモン我なんぢに言事あり答けるは師よ言たまへ
7.41イエス曰けるは或債主に二人の負債人ありて一人は金五百一人は五十を負しに
7.42償方なかりければ債主この二人を免たり然ば二人の者その債主を愛すること孰か多き我に聞せよ
7.43シモン答けるは我おもふに免るる事の多き者ならんイエス曰けるは爾が意ところ違ざる也
7.44遂に婦を顧みてシモンに曰けるは此婦を見か我なんぢの家に入に爾は我足に水を給ず此婦は涙にて我足を濡し首の髮をもて拭り
7.45爾は我に口を接ず此婦は我ここに入し時より我足に口を接て已ず
7.46爾は我首に膏を抹ず此婦は我足に香膏を抹り
7.47是故に我なんぢに言ん此婦の多の罪は赦れたり之に因て其愛も亦多なり赦るること少き者は其愛も亦少し
7.48是に於て其婦に曰けるは爾の罪赦さる
7.49同に坐せる者ども心の中に謂けるは此人は是何人なれば罪をも赦す乎
7.50イエス婦に曰けるは爾の信爾を救り安然にして往
8.1此後イエス郷邑を周遊て神の國の福音を宣傳ふ十二の弟子も偕に從ひぬ
8.2また前に惡鬼を患たりし者病を痊れたる婦等も從ひたり即ち七の惡鬼を逐出れたるマグダラと稱マリア
8.3又ヘロデの家令クーザの妻ヨハンナ又スザンナ此ほか多の婦ありて皆その所有を以てイエスに供事たりき
8.4衆の人々諸邑より出てイエスの所に集りければ譬をもて曰り
8.5種まく者種を播んとて出ぬ播るとき路旁に遺し種あり踐踏られ且天空の鳥これを食へり
8.6また石上に遺し種あり萠出て槁たり是潤なきが故なり
8.7また棘の中に遺し種あり棘も同に生長て之を蔽り
8.8また沃壤に遺し種あり生出て實を結べること百倍せり是を言畢て呼りけるは耳ありて聽ゆる者は聽べし
8.9其弟子とふて曰けるは是いかなる譬ぞ
8.10答けるは神の國の奧義を爾曹には知ことを賜ど他の者には譬を以てす此は視ても見ず聽ても悟ざる爲なり
8.11夫この譬の釋種は神の道なり
8.12路の旁に遺しは聽し後惡魔の爲に其心より道を奪るる者なり彼は人の信じて救れんことを恐る
8.13石上に遺しは聽とき喜びて道を受れども根なければ信ずること暫のみ患難に遇時は道に背く者なり
8.14棘の中に遺しは聽て往この世の諸慮と貨財と宴樂とに蔽れて實ざる者なり
8.15沃壤に遺しは正かつ善心にて道を聽これを守り忍て實を結ぶ者なり
8.16燈を燃し器にて之を蔽ひ或は床下におく者なし入來る者の其光を見ん爲に臺の上に置べし
8.17隱て現れざる者なく藏て知れず露出ざる者なし
8.18是故に爾曹聽ことを愼め有る者はなほ予られ無有者は有りと意ふ所の物をも奪るべし
8.19此時イエスの母と兄弟きたりけれど群集に因て近くこと能ざりしかば
8.20或人これをイエスに告て曰けるは爾が母と兄弟なんぢに遇んとて外に立り
8.21イエス答て曰けるは神の道を聽て之を行ふ者は乃ち我母わが兄弟なり
8.22一日イエス弟子と共に舟に登て彼等に湖の前岸へ渡べしと曰ければ即ち漕出せり
8.23舟の走る時イエス寢たり颶風湖に吹下し舟に水滿んとして危かりしかば
8.24弟子きたりてイエスを醒し曰けるは師よ師よ我儕亡なんとすイエス起て風と浪とを斥めければ止て平穩になりぬ
8.25イエス曰けるは爾曹の信〔何所|いづこ〕に在や彼等駭き且奇みて互に曰けるは此は何人なるぞや風と水とに命ぜしかば亦順へり
8.26斯てガリラヤに對るガダラ人の地に着て
8.27岸に登し時ある一人邑より出てイエスに遇この者は久く惡鬼に憑れ衣をきず家に住ず惟塚にのみ居たりき
8.28イエスを視て喊叫その前に俯伏し大聲に呼りけるは至上神の子イエスよ我なんぢと何の與あらんや爾に求我を苦むること勿れ
8.29〔此|これ〕惡鬼に人より出よとイエスが命じたるに因てなり彼の憑れたる事すでに久し鏈また桎梏にて繋守ども其を打碎き惡鬼の爲に野に逐ぬ
8.30イエス之に問て曰けるは爾の名は何と稱や答けるはレギヨン是おほくの惡鬼の入たるが故なり
8.31惡鬼イエスに求けるは命じて底なき所に往しむる勿れ
8.32此に多の豕の羣山に草を食ゐたりしが彼等その豕に入んことを許せと求ければ之を許せり
8.33惡鬼その人より出て豕に入しかば其群はげしく馳下り山坡より湖に落て溺る
8.34牧者ども其有し事を見て逃ゆき之を邑また諸村に告たり
8.35衆人その有し事を見んとて出てイエスの所に來れば惡鬼の離れし人衣を着たしかなる心にてイエスの足下に坐せるを見て懼あへり
8.36惡鬼に憑れたりし人の救れし状を見たる者この事を彼等に告ければ
8.37ガダラ四方の多の衆庶イエスに此を去んことを求り是大に懼しが故なりイエス舟に登て返ぬ
8.38惡鬼の離たる人イエスと共に居んことを求けるにイエス之を去しめて
8.39家にかへり神の爾に行し大なる事を人に告よと曰ければ遂に去てイエスの己に行たまひし大なる事を遍邑に傳たり
8.40イエス返たるとき衆人みな佇望て之を喜び接ふ
8.41[41-42]ヤイロと云る人あり此は會堂の宰なり年おほよそ十二歳なるひとりの女ありて瀕死なりければ來イエスの足下に伏て我家に來り給んことを求りイエスの往とき衆人これに擁あへり
8.42*[41-42]ヤイロと云る人あり此は會堂の宰なり年おほよそ十二歳なるひとりの女ありて瀕死なりければ來イエスの足下に伏て我家に來り給んことを求りイエスの往とき衆人これに擁あへり
8.43婦あり十二年血漏を患ひ醫者の爲に其業を盡く耗しけれど誰にも痊れ得ざりしが
8.44イエスの後に來て其衣の裾に捫ければ直に血の漏こと止ぬ
8.45イエス曰けるは我に捫るものは誰ぞや衆人はみな特に捫れる者なしと曰りペテロおよび偕に在者ども曰けるは師よ衆人なんぢに擁擠せまるに我に捫る者は誰ぞと曰たまふ乎
8.46イエス曰けるは我に捫る者あり能力の我身より出るを覺れば也
8.47その婦みづから隱せぬを知〔をののき|おののき〕來て前に伏さはりし故と其ただちに愈たることを衆人の前に告
8.48イエス曰けるは女よ心安かれ爾の信なんぢを救へり安然にして往
8.49かく言る時に會堂の宰の家より人きたりて宰に曰けるは爾が女はや死たり師を勞はす勿れ
8.50イエス之をきき答て宰に曰けるは懼るる勿ただ信ぜよ女は痊べし
8.51イエス家に入にペテロ、ヤコブ、ヨハネおよび女の父母の外だれにも偕に入ことを許さざりき
8.52衆人みな女の爲に哭哀しかばイエス曰けるは哭なかれ死たるに非ず寢たる耳
8.53彼等その死たるを知ば之を笑へり
8.54イエス人々を皆いだして女の手をとり女起よと呼曰ければ
8.55其魂かへりて忽ち起たりイエス命じて食を予しかば
8.56父母は駭異ぬイエスこの行しことを人に告るを戒め給へり
9.1イエス十二の弟子を召集め凡の惡鬼を出し病を醫す能力と權威を賜たり
9.2また神の國を宣傳へ病者を醫せん爲に
9.3彼等を遣さんとして曰けるは路資に何をも携ざれ杖また旅嚢、糧、金、二の衣をも帶こと勿
9.4何の家に入とも其處に居りて亦其處より去
9.5爾曹を不接者あれば其邑を出る時かれらに證のため足より塵を拂へ
9.6弟子いでて徧く諸郷にゆき福音を宣傳かつ病を醫せり
9.7分封の君ヘロデ、イエスの行し諸事を聞て惑り或人は之をヨハネの甦れるなりと言
9.8ある人はエリヤの現れたる也といひ又ある人は古の〔預言者|預言者〕の一人甦れる也と言ばなり
9.9ヘロデ曰けるは我ヨハネの首を斬り斯る事の聞ゆる者は誰なるかヘロデ之を見んと欲ふ
9.10使徒たち歸來りて其行しことをイエスに告イエス彼等を携ひて潛に〔ベテサイダ|ベツサイダ〕と云る邑の邊なる野に退きしに
9.11衆人しりて〔從|隨〕ければ之を接て神の國の事を語かつ醫を求る者を醫せり
9.12日昃くとき十二の弟子きたりてイエスに曰けるは此は野なれば衆人を去せ四圍の郷村へゆきて宿をとり食を覓る事を爲たまへ
9.13イエス曰けるは爾曹これに食を予へよ答けるは我儕ただ五のパンと二の魚ある耳これ許多の人の爲に往て買に非ざれば別に食物はなし
9.14此に居し男おほよそ五千人なりきイエス弟子に曰けるは衆人を五十人づつ列べ坐せしめよ
9.15弟子その如く行て彼等をみな坐せしめたり
9.16イエス五のパンと二の魚をとり天を仰ぎ〔祝|祝〕して之をわり弟子に予て衆の前に陳しむ
9.17みな食飽て餘の屑を十二の筐に拾たり
9.18イエス衆の在ざりしとき祈禱したりしが弟子も偕に居りイエス之に問て曰けるは衆人は我を言て誰と爲か
9.19答て曰けるはバプテスマのヨハネ或はエリヤ或は古の〔預言者|預言者〕の一人の甦れる也と
9.20イエス曰けるは爾曹は我を言て誰と爲かペテロ答けるは神のキリストなり
9.21イエス彼等を戒て此事を何人にも告る勿れと命じたり
9.22又曰けるは人の子かならず多の苦を受て長老祭司の長學者どもに棄られ且殺され第三日に甦るべし
9.23又イエス衆人に曰けるは若われに從はんと欲ふ者は己に克て日々その十字架を負て我に從へ
9.24その生命を保全せんと欲者は之を喪ひ我ために生命を喪ふ者は之を保全すべし
9.25人もし全世界を利するとも自己を喪ひ自ら亡なば何の益あらん乎
9.26我と我道を耻る者をば人の子も亦おのが榮光と父と聖使の榮光をもて來る時これを耻べし
9.27われ誠に爾曹に告ん此に立者の中に神の國を見までは死ざる者あり
9.28此事を言けるのち八日ばかり過てイエス、ペテロ、ヨハネ、ヤコブを携ひ祈禱せんとて山に登れり
9.29祈れる時に其顏の貌つねと異り其衣服〔白|しろ〕く輝きぬ
9.30二人の人ありて之と言へり即ちモーセとエリヤなり榮光の中に現れて
9.31イエスのエルサレムにて既や世を遁んとする事を語る
9.32ペテロおよび偕に在し者等いたく寢たりしが已に醒てイエスの榮光また偕に立る二人を見たり
9.33この二人のイエスと別るる時ペテロ、イエスに曰けるは師よ此に居は善われらに三の廬を建せ給へ一は爾のため一はモーセのため一はエリヤの爲にせん此は其言ところを知ざりし也
9.34かく言るとき雲きたりて彼等を蓋へり其雲に入しとき弟子たち懼ぬ
9.35聲雲より出て曰けるは此は我愛子なり之に聽べし
9.36聲寂たれば惟イエス一人を見たり弟子たち口を緘て見たりし事を當時は誰にも告ざりき
9.37翌日山より下りければ許多の人々イエスを迎ふ
9.38其中の或一人よばはりて曰けるは師よ願はくは我子を眷顧たまへ此は我獨子なるに
9.39惡鬼の爲に憑れては忽然さけび泡をふき拘攣られて傷み離るること實に難し
9.40我これを逐出す事を爾の弟子に求しかど能ざりき
9.41イエス答て曰けるは噫信なき悖逆世なる哉われ爾曹の中に爾曹を忍て幾何時あらんや爾が子を此に携來れ
9.42來ば惡鬼かれを傾跌て拘攣ぬイエス汚たる鬼を斥て其子を醫し父に予へたり
9.43衆人みな神の大なる能を駭きイエスの行し事を異める時にイエス弟子に曰けるは
9.44此言を爾曹耳に藏めよ夫人の子は人の手に付されん
9.45彼等この言を悟ざりし悟ざるやう隱されたる也彼等もまた懼て此事を問ざりき
9.46弟子等のうち互に誰か大ならんとの爭論ありければ
9.47イエス其心の念を知て孩子をとり側にたてて
9.48彼等に曰けるは我名の爲に此孩子を接る者は即ち我を接るなり我を接る者は我を遣しし者を接るなり凡て爾曹がうち最も小者ぞ是大ならん
9.49ヨハネ答て曰けるは師よ爾の名に托て鬼を逐出せる者を見たりしが我儕と共に從はざる故これを禁たり
9.50イエス曰けるは禁ること勿れ我儕に敵抗ざる者は我儕に屬者なり
9.51イエス天に升るの期いたりければエルサレムに往ことを確定めたり
9.52使者等を先に遣しければ彼等ゆきてイエスに備んが爲サマリヤ人の郷に入しに
9.53郷人そのエルサレムに向行さまなるが故にイエスを納ざりき
9.54弟子のヤコブ、ヨハネ此事を見て曰けるは主よ我儕エリヤの行し如く天より火を召降し彼等を滅さんとす可か
9.55イエス顧みて之を責め曰けるは爾曹の心如何なる乎を自ら知ざるなり
9.56人の子は人の命を滅す爲に來ず惟これを救ふ爲なり遂に他の郷に往り
9.57路を行とき或人イエスに曰けるは主よ何處に往たまふとも我從はん
9.58イエス彼に曰けるは狐は穴あり天空の鳥は巣あり然ども人の子は枕する所なし
9.59又ある一人に曰けるは我に從へ彼いひけるは主よ先ゆきて父を葬る事を我に容せ
9.60イエス曰けるは死たる者に其死し者を葬らせ爾は往て神の國を宣よ
9.61又ある一人曰けるは主よ爾に從はん先ゆきて家人に別を告ることを容せ
9.62イエス曰けるは手を犂に着て後を顧る者は神の國に當ざる者也
10.1此後主また七十人を立て之を兩個づつに分ち自ら至んとする諸邑諸地へ前に遣さんとして
10.2彼等に曰けるは收稼は多く工人は少し故にその稼主に工人を收稼所に遣んことを求べし
10.3往われ爾曹を遣すは羔を狼のなかに入るが如し
10.4嚢また旅袋履をも携こと勿れ途にて人に問候をもする勿れ
10.5人の家に入ば先其家の安全ならん事を求へ
10.6若ここに安全の子あらば爾曹が祈る安全は其家に留らん若しからずば其祈る安全なんぢらに歸べし
10.7其家に居りて供る所のものは之を飮食せよ蓋工人の其工錢を獲は宜なればなり家より家に移ることを爲ざれ
10.8邑に入んに接る者あらば其なんぢらの前に供る者を食せよ
10.9邑の中なる病の者を醫せ亦衆人に神の國は爾曹に近けりと曰
10.10もし邑に入んに接る者なくば衢に出て曰
10.11我儕に沾たる爾が邑の塵は爾曹に對て拂ん然ども神の國の近けるを知
10.12われ爾曹に告ん其日いたらばソドムの刑罰は此邑よりも却て易かるべし
10.13ああ禍なる哉コラジンよ噫禍なる哉〔ベテサイダ|ベツサイダ〕よ爾曹の中に行し異能を若ツロとシドンに行しならば彼等は早く麻をき灰を蒙り坐して悔改しなるべし
10.14審判にはツロとシドンの刑罰は爾曹よりも却て易ならん
10.15已に天にまで擧られたるカペナウンよ又陰府に落さるべし
10.16爾曹に聽者は我に聽なり爾曹を棄る者は我を棄るなり我を棄る者は我を遣しし者を棄るなり
10.17七十人喜び返りて曰けるは主よ惡鬼さへも爾の名に因て我儕に服せり
10.18イエス曰けるはわれ電の如くサタンの天より隕るを見し
10.19我なんぢらに蛇蠍を踐また敵の諸の權を制ふる權威を賜たり必ず爾曹を害ふ者なし
10.20然ども惡鬼の爾曹に服しし事は喜とする勿れ爾曹が名の天に録されしを喜とすべし
10.21此時イエス心に喜びて曰けるは天地の主なる父よ此事を智者と達者とに隱して赤子に顯し給ふを謝す父よ然それ是の如きは意旨に適るなり
10.22父は萬物を我に賜ふ父の外に子は誰なると識者なく亦子および子の顯す所の者の外に父は誰なると識者なし
10.23イエス弟子を顧て竊に曰けるは爾曹が見ところの事を見るその目は福なり
10.24我なんぢらに告ん多の〔預言者|預言者〕および王も爾曹が見ところの事を見んとせしかども見ず爾曹が聞ところの事を聞んとせしかども聞ざりき
10.25爰に一個の教法師あり起て彼を試み曰けるは師よ我なにを爲ば永生を受べき乎
10.26イエス曰けるは律法に録されしは何ぞ爾いかに讀か
10.27答て曰けるは爾心を盡し精神を盡し力を盡し意を盡して主なる爾の神を愛すべし亦己の如く隣を愛すべし
10.28イエス曰けるは爾の答へ然り之を行はば生べし
10.29彼みづからを罪なき者に爲んとてイエスに曰けるは我〔鄰|隣〕とは誰なる乎
10.30イエス答て曰けるはある人エルサレムよりエリコに下るとき強盜に遇り強盜その衣服を剥取て之を打擲き瀕死になして去ぬ
10.31斯る時に或祭司この路より下しが之を見過にして行り
10.32又レビの人も此に至り進み見て同く過行り
10.33或サマリアの人旅して此に來り之を見て憫み
10.34近よりて油と酒を其傷に沃これを裹て己が驢馬にのせ旅邸に携往て介抱せり
10.35次日いづるとき銀二枚を出し館主に予て此人を介抱せよ費もし増ば我かへりの時なんぢらに償ふべしと曰り
10.36然ば此三人のうち誰か強盜に遇し者の隣なると爾意ふや
10.37彼いひけるるは其人を矜恤たる者なりイエス曰けるは爾も往て其ごとく爲よ
10.38かれら路を行る時イエス一郷に入ければマルタと云る婦これを迎て自己の家に入ぬ
10.39その姉妹にマリアと云る者ありイエスの足下に坐りて其道を聽り
10.40マルタ供給のこと多して心いりみだれイエスに近よりて曰けるは主よ我が姉妹われを一人遺て勞動しむるを何とも意ざるか彼に命じて我を助しめよ
10.41イエス答て曰けるはマルタよマルタよ爾多端により思慮ひて心勞せり
10.42然ど無て叶ふまじき者は一なりマリアは既に善業を撰たり此は彼より奪べからざる者なり
11.1イエス某所にて祈禱しけるに畢しとき一人の弟子いひけるは主よヨハネ其弟子に教し如く我儕にも祈ることを教たまへ
11.2イエス曰けるは祈る時は斯いふべし天に在す我儕の父よ願くは聖名を尊崇させ給へ爾國を臨らせ給へ爾旨の天に成ごとく地にも成せ給へ
11.3我儕の日用の糧を毎日に與たまへ
11.4我儕に罪を犯す者を凡て免せば我儕の罪をも免し給へ我儕を試探に遇せず惡より拯出し給へ
11.5[5-6]また彼等に曰けるは爾曹の中もし或人夜半に其友へ往て友よ我が朋輩旅より來しに供べき物なきゆゑ三のパンを借よと曰んに
11.6*[5-6]また彼等に曰けるは爾曹の中もし或人夜半に其友へ往て友よ我が朋輩旅より來しに供べき物なきゆゑ三のパンを借よと曰んに
11.7内に居もの答て我を煩はす勿れ既や門は閉われと共に兒曹も牀に在ば起て予ること能ずといふ者あらん乎
11.8我なんぢらに告ん其友なるにより起て予ざれ雖ひたすら請が故に其需に從ひ起て予べし
11.9我なんぢらに告ん求よ然ば予られ尋よ然ばあひ門を叩よ然ば啓るることを得ん
11.10蓋すべて求る者は得たづぬる者はあひ門を叩者は啓るれば也
11.11爾曹のうち父たる者誰か其子のパンを求んに石を予んや魚を求んに其に代て蛇を予んや
11.12卵を求んに蠍を予んや
11.13然ば爾曹惡者ながら善賜をその兒曹に予ることを知まして天に在す爾曹の父は求る者に聖靈を予ざらん乎
11.14イエス瘖唖なる惡鬼を逐出しけるに惡鬼いでて瘖唖ものいひしかば人々駭けり
11.15其中なる者の曰けるは彼は惡鬼の王ベルゼブルに藉て惡鬼を逐出せる也
11.16又ある人々イエスを試んとて天よりの休徴を求たり
11.17イエスその意を知て曰けるは互に分爭ふ國は亡び互に分爭ふ家は傾るる也
11.18若サタンも自ら分爭はば其國いかで立んや〔其|夫〕なんぢら我を言てベルゼブルに藉て惡鬼を逐出すとせり
11.19若われベルゼブルに藉て惡鬼を逐出さば爾曹の子弟は誰に藉て惡鬼を逐出すや夫かれらは爾曹の裁判人と爲べし
11.20若われ神の指をもて惡鬼を逐出たるならば神の國は既や爾曹に來れり
11.21勇者鎧を擐て邸を守るときは其所有安全なり
11.22もし之より勇者きたりて其に勝ときは其恃とせる鎧を奪ひ且贓物を分べし
11.23我と偕ならざる者は我に叛き我と偕に斂ざる者は散すなり
11.24惡鬼人より出て旱たる所をめぐり安を求れども得ずして曰けるは我出し家に歸らん
11.25已に來しに掃淨り飾れるを見
11.26遂に往て己よりも惡き七の惡鬼を携へ入て此に居ば其人の後の患状は前より更に惡かるべし
11.27この話を言るとき群集の中より一婦聲を揚て曰けるは爾を孕し腹と爾の吮し乳は福なり
11.28イエス答けるは然されど神の道を聽て其を守る者の福には若ず
11.29人々擁集れる時イエス曰けるは今の世は惡し奇跡を求るとも〔預言者|預言者〕ヨナの奇跡の外に奇跡は予られじ
11.30蓋ヨナがニネベの人に奇跡と爲し如く人の子は今の世に奇跡と爲べし
11.31南方の女王審判の日に共に起て今の世の人の罪を斷めん彼は地の極よりソロモンの智慧を聽んとて來れり
11.32夫ソロモンより大なる者ここに在
11.33ニネベの人審判の日に共に起て今の世の人の罪を斷めん彼等はヨナの勸言に因て悔改めたり夫ヨナより大なる者ここに在
11.34燈を燃て隱たる處あるひは升の下におく者なし入來る者は其光を見ん爲に燭臺の上に置なり
11.35身の燈は目なり爾の目瞭かならば全身あかるく其目眊ければ爾の身も暗し
11.36故に爾にある光の暗らぬやう愼めよ
11.37もし爾の全身光明にして暗所なくば燈の輝きて爾を照す如く全く光明なるべし
11.38イエス語れるとき或パリサイの人共に食せん事を請ければ入て食に就り
11.39その食する前に洗ことを爲ざりしを見てパリサイの人異めり
11.40主これに曰けるは爾曹パリサイの人椀と盤の外を潔す然ど爾曹内は貪欲と惡にて充り
11.41無知なる者よ外を造し者はまた内をも造ざりし乎
11.42なんぢら所有物を以て施せ然ば爾曹の爲に凡の物は潔れる也
11.43禍なる哉なんぢらパリサイの人よ薄荷茴香および凡の野菜十分の一を取納て義と神を愛することを廢これ行ふべき事なり彼も亦廢べからざる者なり
11.44禍なる哉なんぢらパリサイの人よ會堂の高座市上の間安を好めり
11.45禍なる哉それ爾曹は隱沒たる墓の如し其上を行く人々これを知ざる也
11.46イエス曰けるは爾曹も禍なるかな教法師よ任がたき荷を人に負せ自ら指一をも其荷に按ず
11.47禍なる哉なんぢらは〔預言者|預言者〕の墓を建なんぢらの先祖は之を殺せり
11.48實に爾曹先祖の爲る事をこのむ證明を爲り夫かれらは之を殺し爾曹は其墓を建
11.49是故に神の智慧いへる言あり我〔預言者|預言者〕および使徒を彼等に遣さんに其中の或者を殺し或者をば窘むべしと
11.50創世より以來ながしし凡の〔預言者|預言者〕の血は此代に於て討さんと爲なり
11.51即ちアベルの血より殿と祭壇の間に殺されたるザカリヤの血にまで至われ誠に爾曹に告ん之を此代に討すべし
11.52なんぢら禍なるかな教法師よ智識の鑰を奪て自ら入ず且入んとする者をも阻り
11.53此言を語るとき學者とパリサイの人々深く憤恨を含て多端の事を詰かけ
11.54その口より出る言を何事か取へ訴んとして伺ひたり
12.1そのとき數萬の人々相踐あふ程に集れりイエス先弟子に曰けるは爾曹パリサイの人の麪酵を謹めよ是僞善なり
12.2それ掩れて露れざる者はなく隱て知れざる者はなし
12.3是故に爾曹幽暗に語しことは光明に聞ゆべし密なる室にて耳に附言しことは屋上に播るべし
12.4我友よ爾曹に告ん身體を殺して後に何をも爲能ざる者を懼るる勿れ
12.5われ懼べき者を爾曹に示さん殺したる後に地獄に投入る權威を有る者を懼よ我まことに爾曹に告ん之を懼べし
12.6五の雀は二錢にて售に非ずや然るに神に於は其一をも忘れ給はず
12.7爾曹の首の髮また皆かぞへらる故に懼るる勿れ爾曹は多の雀よりも貴れり
12.8又われ爾曹に告ん我を人の前に識と言ん者をば人の子も亦神の使者の前に之を識と言ん
12.9我を人の前に識ずと言ん者は神の使者の前に彼も識ずと言るべし
12.10凡そ人の子を謗る者は赦さる可れど聖靈を褻す者は赦さる可らず
12.11人なんぢらを會堂また執政および權ある者の前に曳携なば如何こたへ何を言んと思ひ煩ふ勿れ
12.12其時に説べき言は聖靈なんぢらに示すべし
12.13衆人の中より一人イエスに曰けるは師よ我が兄弟に〔遺業|遺業〕を我に分よと命たまへ
12.14イエス曰けるは人よ誰われを立て爾曹の裁判人また物を分つ者と爲しぞ
12.15イエス衆人に曰けるは戒心して貪心を愼めよ夫人の生命は〔所蓄|所蓄〕の饒なるには因ざる也
12.16また譬を彼等に語て曰けるは或富人その田畑よく豐ければ
12.17自ら忖いひけるは我が作物を藏る所なきを如何せん
12.18又曰けるは我かく爲ん我倉を毀ち更に大なるを建すべて我が作物と貨を其所に藏べし
12.19斯て靈魂に對ひ靈魂よ多年を過ほどの許多の貨物を有たれば安心して食飮樂めよと言んとす
12.20然るに神これに曰けるは無知なる者よ今夜なんぢが靈魂とらるること有べし然ば爾の備し物は誰が有になる乎
12.21凡そ己の爲に財を積へ神に就て富ざる者は此の如なり
12.22イエスその弟子に曰けるは故に我なんぢらに告ん爾曹生命の爲に何を食ひ身體の爲に何を着んとて思ひ煩ふ勿れ
12.23生命は糧より優り身體は衣よりも優れり
12.24鴉を思見よ稼ず穡ず倉をも納屋をも有ず然ども神はなほ此等を養ふ況て爾曹は鳥よりも貴きこと幾何ぞや
12.25爾曹のうち誰かよく思ひ煩ひて其生命を寸陰も延得んや
12.26然ば最小事すら能ざるに何ぞ其他を思ひ煩ふや
12.27百合花は如何して生長かを思へ勞ず紡がざる也我爾曹に告んソロモンの榮華の極の時だにも其裝この花の一に及ざりき
12.28神は今日野に在て明日爐に投入らるる草をも如此よそはせ給へば況て爾曹をや吁信仰うすき者よ
12.29爾曹何を食ひ何を飮んと求る勿また思ひ惑ふこと勿れ
12.30凡て是等の物は世界の邦人の求るもの也なんぢらの父は是等の物の爾曹に無て叶ぬ事を知
12.31ただ神の國を求めよ然ば是等の物は爾曹に加らるべし
12.32小き羣よ懼るる勿れ爾曹の父は喜びて國を爾曹に予へ給はん
12.33爾曹の所有を售て施し己が爲に常に舊ざる財布すなはち盡ざる財寶を天に備よ其處は盜賊も近よらず蠧も壞はざる也
12.34爾曹の財寶の在ところには爾曹の心も亦そこに在べし
12.35爾曹腰に帶し火燈を燃して居
12.36主人婚筵より歸來り門を叩ば速かに啓ん爲に彼を待人の如せよ
12.37主人きたりて其目を醒し居を見なば此僕は福なり誠に我なんぢらに告ん主人みづから腰に帶し僕を食に就せ前て之に供事すべし
12.38或は二更あるひは三更に主人きたりて然なせるを見なば此僕は福なり
12.39爾曹これを知べし若し家の主人盜賊いづれの時に來かを知ば其家を守て破せまじ
12.40然ば爾曹も預じめ備せよ不意ときに人の子きたらんと爲ばなり
12.41ペテロ曰けるは主よ此譬は我儕に言か又は凡の人に言か
12.42主いひけるは時に及て食物を給與しめん爲に主人がその僕等の上に立たる忠義にして智き家宰は誰なる乎
12.43其主人きたる時に是の如く勤るを見らるる僕は福なり
12.44我まことに爾曹に告ん其所有を皆かれに督らすべし
12.45若その僕心の中に我が主人の來るは遲らんと思その僕婢を扑たたき食飮して且酒に醉はじめば
12.46其僕の主人おもはざるの日しらざるの時に來りて之を斬殺し其報を不信者と同うすべし
12.47僕主人の心を知ながら預備せず亦その心に從ざる者は扑るること多らん
12.48知ずして扑べき事を作し者は扑るる事も少からん多く予らるる者は多く求らるべし多く托れば之より多く求べし
12.49われ火を地に投入ん爲に來れり我なにをか欲む已に此火の燃たらん事なり
12.50われ受べきのバプテスマあり其成遂らるる迄は我痛いかばかりぞ乎
12.51我は安全を地に施んとて來ると意ふや我なんぢらに告ん然ず反て分爭しむ
12.52今よりのち一家に五人あらば三人は二人に敵對し二人は三人に敵對して分るべし
12.53父は子に子は父に母は女に女は母に姑は其婦に婦は其姑に敵對して分るべし
12.54イエスまた衆人に曰けるは雲の西より起るを見ば直に雨ふらんと爾曹いふ果て然り
12.55南より風ふけば暑からんと爾曹いふ果て然り
12.56僞善者よ天地の色象を別ことを知て此時を別ち能ざるは何ぞや
12.57また何ぞ自ら公義を審ざる乎
12.58なんぢ〔訟|訟〕る者と共に有司に往とき〔途中|途中〕にて心を盡して彼より釋されんことを求めよ恐くは〔訟|訟〕る者なんぢを裁判人にひき裁判人なんぢを下吏に付し下吏なんぢを獄に入ん
12.59我なんぢに告ん一錢も殘ず償ふまでは爾そこを出ことを得ざる也
13.1當時あつまりたる者の中にピラトがガリラヤ人の血を其供物に雜し事をイエスに告る者あり
13.2イエス答て彼等に曰けるは爾曹此ガリラヤ人は是の如く害されし故に凡のガリラヤ人よりも益りて罪ある者と意ふや
13.3我なんぢらに告ん然ず爾曹悔改めずば皆おなじく亡さるべし
13.4シロアムの塔たふれて壓死されし十八人はエルサレムに住る凡の人々よりも益りて罪ある者と意ふや
13.5われ爾曹に告ん然ず爾曹悔改めずば皆おなじく亡さるべし
13.6又この譬を云り或人その葡萄園に植おきたる無花果樹ありしが來て之に果を求れども得ざりければ
13.7其園丁に曰けるは我三年きたりて此無花果樹に果を求れども得ず之を斫され何ぞ徒らに地を塞や
13.8園丁こたへけるは主よ我その周圍を掘て之に糞するまで今年も容せ
13.9もし果を結ばば善もし結ずば後に之を斫べし
13.10イエス安息日に或會堂にて教しに
13.11十八年鬼に患されたる婦あり傴僂て少も伸ること能ざりき
13.12イエス之を見てよび婦よ爾は其病より釋さるると曰て
13.13手を婦に按ければ直に伸て神を讚美たり
13.14會堂の宰イエスの安息日に醫したる事を怒こたへて衆人に曰けるは事を爲べきの日六日あれば其中に來りて醫さるべし安息日に爲ざれ
13.15主かれに答て曰けるは僞善者よ爾曹おのおの安息日には其牛や驢をとき厩より牽出して水を飮さざる乎
13.16況て此婦はアブラハムの裔なり十八年サタンに縛られたる其結を安息日に解べからざらん乎
13.17イエス如此曰ければ敵對しし者みな慚ぬ又衆人みな其行し慈惠ことを喜べり
13.18イエスまた曰けるは神の國は何に比へ又なにに譬んや
13.19一粒の芥種の如し人これを取て其園に播ば長生て大なる樹となり天空の鳥その枝に棲なり
13.20又いひけるは我神の國を何に譬んや
13.21麪酵の如し婦これを取て三斗の粉の中に納せば盡く發出すなり
13.22イエス教つつ各城各郷を過エルサレムに向て旅行り
13.23或人いひけるは主よ救るる者は少き乎
13.24イエス彼等に曰けるは窄門に入ために力を盡せ我なんぢらに告ん入ん事を求て能ざる者おほし
13.25家の主人おきて門を閉し後に爾曹外にたち門を叩て主よ主よ我に啓と曰んに主人こたへて我なんぢらは何處より來しか知ずと曰ん
13.26然る時に我儕は爾の前に食飮し爾また我儕の衢に教たりしと言出さんに
13.27主人こたへて我なんぢらに告ん何處より來しか知ず皆惡を爲す者よ我を去と曰ん
13.28爾曹アブラハム、イサク、ヤコブ及び凡の〔預言者|預言者〕は神の國に在て爾曹は外に投出さるるを見ん時に哀哭切齒すると有べし
13.29また人々西や東北や南より來りて神の國に坐するならん
13.30それ後の者は先に先の者は後に爲べし
13.31當日あるパリサイの人々來りてイエスに曰けるはヘロデ爾を殺さんとする故に此を離往
13.32答て曰けるは爾曹ゆきて其狐に告よ我今日明日惡鬼を逐出し病を醫し第三日に此事をはらん
13.33然ども今日明日また次日は我かならず行べし蓋〔預言者|預言者〕はエルサレムの外に殺るること有ねば也
13.34噫エルサレムよエルサレムよ〔預言者|預言者〕を殺し爾に遣されし者を石にて撃る者よ母鷄の雛を翼の下に集むる如く我なんぢの赤子を集んと爲しこと幾回ぞや爾曹は欲ず
13.35視よ爾曹の家は墟と爲て遺さるべし誠に我なんぢらに告ん主の名に託て來る者は福なりと爾曹いはん時いたる迄は我を見ざるべし
14.1イエス安息日に食事の爲ある宰なるパリサイの人の家に入しに人々かれを窺たり
14.2其前に〔腹脹|腹脹〕を患ひたる人ありしかば
14.3イエス應て教法師とパリサイの人々に曰けるは安息日に醫す事は宜や否
14.4かれら默然たりイエスかの人を執へ醫して之を去しめ
14.5彼等に答て曰けるは爾曹のうち誰か驢馬あるひは牛などの阱に陷たらんに安息日には遽かに曳出さざる乎
14.6彼等この言に就て對ること能ざりき
14.7斯て其席に請れたる人々の首席を擇を見てイエス譬を以て彼等に曰けるは
14.8なんじ婚筵に請れんとき首座に坐すること勿れ恐くは爾より尊人まねかれなば
14.9彼と爾と請し者きたりて此人に座を讓れと曰ん然ば爾羞て末座に往べし
14.10是故に爾まねかれん時は往て末座に坐せよ請し者〔きたり|來り〕て友よ首座に進と爾に言ば同席の者の前に爾尊まるべし
14.11凡そ自ら高ぶる者は卑され自ら卑だる者は高くせらるべし
14.12又かれを請る者に曰けるは爾午餐あるひは晩餐を設るとき朋友兄弟〔親戚|親戚〕また富る隣の人を請なかれ恐くは彼等また爾を請て其報答を爲ん
14.13爾筵を爲ば貧乏、〔癈疾|廢疾〕、跛者、瞽者などを請け
14.14然ば爾福なるべし蓋彼等は爾に報ること能ず義き人々の甦らん其時なんぢら報答あれば也
14.15同に食せる者の一人〔之|これ〕を聞てイエスに曰けるは神の國に食する者は福なり
14.16イエス彼に曰けるは或人おほいなる筵を設て多賓を請けり
14.17筵のとき僕を其請たる者に遣して百物はや備たれば來るべしと言せけるに
14.18彼等みな同く辭ぬ其始の者かれに曰けるは我田地を買たれば往て視ざるを得ず願くは我を允し給へ
14.19又一人の者いひけるは我五耦の牛を買たれば之を試むる爲に往ん願くは我を允し給へ
14.20又一人の者いひけるは我妻を娶たり是故に往ことを得ざる也
14.21其僕かへりて此事を主人に告ければ主人怒て其僕に曰けるは速かに邑の衢巷に往て貧者、〔癈疾|廢疾〕、跛者、瞽者などを此に引來れ
14.22僕曰けるは主よ命の如く行り然ど尚あまりの座あり
14.23主人僕に曰けるは道路や藩籬の邊にゆき強て人々を引來り我家に盈しめよ
14.24我なんぢらに告ん彼まねきたる人々は一人だに我餐を甞ふ者なし
14.25多の人々イエスと偕に行しがイエス顧みて彼等に曰けるは
14.26凡そ我に來てその父母妻子兄弟姉妹また己の生命をも憎む者に非ざれば我弟子と爲ことを得ず
14.27又その十字架を任ずして我に從ふ者は我弟子と爲ことを得ず
14.28なんぢら誰か城を築かんに先坐して其費この事の竣までに足や否を計ざらん乎
14.29恐くは基を置て之を成能ずば見者みな嘲笑て
14.30此人は築始て成遂ざりしと曰ん
14.31また王いでて他の王と戰はんに先坐して此一萬人をもて彼が二萬人に敵すべきや否やを籌ざらん乎
14.32もし及ずば敵なほ遠れる時に使を遣して和睦を求べし
14.33然ば此の如く爾曹その所有を盡く捨ざる者は我弟子と爲ことを得ず
14.34鹽は善物なり然ども鹽その味を失はば何をもて之に味を和んや
14.35田にも糞にも益なく外に棄らるるなり耳ありて聽る者は聽べし
15.1さて税吏と罪ある者どもイエスに聽んとて近よりければ
15.2パリサイの人と學者たち譏誚て曰けるは此人は罪ある人に接りて共に食せり
15.3イエス此譬を彼等に語て曰けるは
15.4爾曹のうち誰か一百の羊あらんに若その一を失はば九十九を野におき往て其失し羊を獲までは尋ざらん乎
15.5尋得ば喜て之を己の肩に負
15.6家に歸て其友と其鄰の人々を召集て曰ん我と共に喜べ我うしなへる羊を獲たれば也
15.7われ爾曹に告ん此の如く一人の罪ある人悔改なば悔改むるに及ざる九十九の義人よりは尚天に於て喜あらん
15.8また婦のうち誰か金錢十枚をもち其の一枚を失はんに燈火を燃て家を〔掃除|掃除〕し之を獲までは切に尋ざらん乎
15.9尋得ば其友と其鄰の人々を召集て曰ん我と共に喜べ我うしなへる金錢を獲たれば也
15.10われ爾曹に告ん此の如く一人の罪ある人悔改めなば神の使の前に喜あるべし
15.11また曰けるは或人子二人あり
15.12その季子父に曰けるは父よ我得べき業を我に分予よ父その産を彼等に分たれば
15.13幾日も過ざるに季子その産を盡く集て遠國へ旅行せしが放蕩にして其分資を皆そこにて耗せり
15.14盡く耗ししとき大なる饑饉その地に有て彼ともしく爲はじめければ
15.15往て其地の一民に身を投たり其人豕を牧ために彼を野に遣せり
15.16かれ豕の食する所の豆莢をもて己が腹を果さんと欲ふほどなれど何をも彼に予る人なし
15.17自ら省悟て曰けるは我父の所には食物あまれる傭人の許多か有に我は飢て死んとす
15.18起て我父に往て曰ん父よ我天と爾の前に罪を犯たれば
15.19爾の子と稱るに足ざる者なり爾の傭人の一人の如く我を爲たまへと
15.20即ち起て其父に往り尚とほく有しに其父かれを見て憫み趨〔往|往き〕其頸を抱て接吻しぬ
15.21子父に曰けるは父よ我天と爾の前に罪を犯たれば爾の子と稱るに足ざる也
15.22父その僕等に曰けるは至も美服を携來りて之に衣せ其指に環をはめ其足に履を穿せよ
15.23また肥たる犢を牽來りて宰れ我儕食して樂まん
15.24是わが子死て復生うしなひて復得たれば也とて彼等と共に樂み始む
15.25その兄田に在しが歸て家に近き樂と舞の音を聞
15.26その僕の一人を召て是何事ぞやと問るに
15.27僕曰けるは爾の弟歸りたり恙なく彼を得たりしに因て爾が父肥たる犢を宰たるなり
15.28兄いかりて入ず是故に其父いでて彼に勸しかば
15.29父に答て曰けるは我多年なんぢに事て未だ爾の命に背ず然ども我友と樂む爲に羔をも予し事なし
15.30然に妓の爲に爾の業を耗したる此なんぢが子かへれば之が爲に肥たる犢を宰れり
15.31父かれに曰けるは子よ爾は常に我と共に在また我所有は皆なんぢの屬なり
15.32爾の弟死て復生うしなひて復得たるが故に我儕喜て樂むは當然の事なり
16.1イエス又その弟子に曰けるは或富る人に操會者ありけるが主の所有を耗ししと主人へ訴へらる
16.2主人操會者を呼て曰けるは爾に就て我ききたる事は何ぞや今後なんぢを操會者と爲えざれば其會計たる條件を我に辨よ
16.3操會者みづから意るは主人我操會を奪なば何を爲ん我鋤を執には力なく施を乞は〔恥|耻〕かしし
16.4われ操會を奪れん時は是等の家に迎らるべき所爲を知りとて
16.5遂に主人の負債人を悉く召て其首の者に曰けるは爾わが主に負債なにほどある乎
16.6答ていふ油百斗なり彼に曰けるは爾の券書を取いそぎ坐して五十と書よ
16.7又一人に曰けるは爾の負債幾何あるや答ていふ小麥百斛なり彼に曰けるは爾の券書を取て八十と書よ
16.8主人その所爲の巧なるに因て此不義なる操會者を譽たり夫この世の子輩は此世に於は光の子輩よりも尤も巧なり
16.9我なんぢらに告ん不義の財を以て己が友を得よ此は乏からん時彼ら爾曹を永遠宅に接んが爲なり
16.10小事に忠き者は大事にも忠く小事に忠からざる者は大事にも忠からず
16.11故に若なんぢら不義の財に忠からずば誰か眞の財を爾曹に託んや
16.12爾曹もし人の所有に不義ならば誰か〔爾曹|爾〕の所有を〔爾曹|爾〕に與んや
16.13一人の僕は二人の主人に事ること能ず蓋これを惡かれを愛し或は此を重んじ彼を輕んずれば也なんぢら神と財に兼事ること能ず
16.14慾ふかきパリサイの人々此事を聞てイエスを嘲哂たり
16.15イエス彼等に曰けるは爾曹は人々の前に自己を義とする者なり然ども神は爾曹の心を知り夫人の崇ぶ所の者は神の前に惡るる者なり
16.16律法と〔預言者|預言者〕はヨハネまでなり其のち神の國は宣傳らる皆用力て之に入んと爲なり
16.17天地の廢るは律法の一畫の廢るよりも易し
16.18凡そ其妻を出して他の者を娶ば姦淫を行ふ也また夫に出されたる婦を娶る者も姦淫を行ふなり
16.19爰に富る人あり紫袍と細布を衣て日々奢樂めり
16.20亦ラザロと云る貧者あり甚く腫物を患て富る人の門に置れ
16.21其案より落る餘屑にて養はれんと欲へり又犬きたりて其腫物を舐
16.22貧者死たれば天の使者たちに依てアブラハムの懷に送れたり富る人も死て葬られしが
16.23陰府にて痛苦をうけ其目をあげ遙にアブラハムと其懷に在ラザロを見て
16.24喊叫びいひけるは父アブラハムよ我を憐みラザロを遣して其指の尖を水に蘸わが舌を涼しめ給へ我この火燄の中に苦めばなり
16.25アブラハム曰けるは子よ爾は生たりし時に爾の福を受またラザロは其苦を受しを憶へ今かれは慰られ爾は苦めらるるなり
16.26斯耳ならず此より爾曹に渉んとするとも得ず彼より我儕に渉んとするとも亦えざる爲に我儕と爾曹との間に限おかれたる巨なる淵あり
16.27答けるは然ば父よ願くは我父の家へラザロを遣たまへ
16.28蓋われに五人の兄弟あり亦かれらが此苦の所に來ざる爲にラザロを證據に爲しめよ
16.29アブラハム曰けるは彼等にはモーセと〔預言者|預言者〕あれば之に聽べし
16.30答けるは然ず父アブラハムよもし死より彼等に往者あらば悔改べし
16.31アブラハム曰けるは若モーセと〔預言者|預言者〕に聽ずば縱ひ死より甦る者ありとも其勸を受ざるべし
17.1イエス弟子に曰けるは躓さるる事かならず來らん其を來らす者は禍なる哉
17.2この小子の一人を躓するよりは磨石を頸に懸られて海に投入られんこと其人の爲に宜るべし
17.3自己を謹愼よ若兄弟なんぢに罪を犯さば之を諌よ彼もし悔なば免せ
17.4もし一日に七次罪を爾に犯して一日に七次なんぢに對われ悔と曰ば免すべし
17.5使徒主に曰けるは我儕に信を益せよ
17.6主いひけるは爾曹もし芥種一粒ほどの信あらば此桑樹に拔て海に植れと曰ども爾曹に從ふべし
17.7誰か爾曹の中に或は耕し或は畜を牧僕あらんに彼田より歸たる時亟かに往て食に就といふ者あらん乎
17.8反て曰ずや我食を備わが食飮をはるまで帶を束われに事て後なんぢ食飮すべしと
17.9僕主人の命ぜし事に從へばとて主人かれに謝すべきか然じと我は意り
17.10斯ば亦なんぢら命ぜられし事をみな行たる時も我儕は無益の僕なすべき事を行たるなりと謂
17.11イエス、エルサレムに往ときサマリアとガリラヤの中を經
17.12ある村に入しとき十人の癩者ありて彼にあひ遙に立て聲を揚いひけるは
17.13師イエスよ我儕を矜恤たまへ
17.14イエス之を見て曰けるは往て己を祭司に見せよ彼等ゆく間に潔られたり
17.15その一人己が醫されたるを見て返來り大聲に神を榮め
17.16イエスの足下に俯伏して謝せり彼はサマリア人なり
17.17イエス答て曰けるは潔られし者は十人に非や其九人は何處に在か
17.18この異邦人の外に神を榮を歸せんとて返たる者あらざる乎
17.19また彼に曰けるは起て往なんぢの信仰なんぢを救り
17.20神の國は何の時きたる乎とパリサイの人に問れければイエス答て曰けるは神の國は顯れて來ものに非ず
17.21此に視よ彼に視よと人の言べき者にも非ず夫神の國は爾曹の衷に在
17.22また弟子に曰けるは爾曹人の子の一日を見たく欲ふ日來らん然ども見ざるべし
17.23人々なんぢらに此に見よ彼に見よと曰ん然ども往なかれ從ふ勿れ
17.24それ電光の天の彼處より閃き天の此處に光るが如く人の子も其日に如此あるべし
17.25然ど人の子かならず先おほくの苦を受また此世の人に棄られん
17.26ノアの時に有し如く人の子の時にも然あるべし
17.27即ちノア方舟に入し日まで衆人食飮、嫁、娶など爲たりしが洪水きたりて彼等を滅せり
17.28又ロトの時にも如此ありき人々食飮、貿易、樹藝、構造など爲たりしに
17.29ロト、ソドムより出し日天より火と硫黄を雨せて彼等を皆滅せり
17.30人の子の顯るる日にも亦〔斯|かく〕有べし
17.31其日には人屋上に在ば其器具室に在とも之を取んとて下なかれ亦田畑にある者も同く歸なかれ
17.32ロトの妻を憶へ
17.33凡そ其生命を救んとする者は之を失ひ若その生命を失はん者は之を存べし
17.34我なんぢらに告ん其夜ふたり同床に在んに一人は執れ一人は遺さるべし
17.35二人の婦ともに磨ひき居んに一人は執れ一人は遺さるべし
17.36[なし]
17.37[36]かれら答て曰けるは主よ此事何處に有や彼等に曰けるは屍の在ところには鷲あつまらん
18.1イエスまた人の恆に祈禱して沮喪すまじき爲に譬を彼等に語けるは
18.2或邑に神を畏ず人を敬はざる裁判人ありけるが
18.3其邑に嫠婦ありて我を我仇より救たまへと曰て彼に至しに
18.4かれ久く肯はざりしかど其のち心の中に思けるは我神を畏ず人をも敬はざれど
18.5此嫠われを煩せば彼が絶ず來て我を聒さざる爲に之を救はん
18.6主いひけるは不義なる裁判人の言し事を聽
18.7況て神は晝夜祈る所の選たる者を久く忍とも終に救ざらんや
18.8我なんぢらに告ん神は速に彼等を救はん然ど人の子きたらんとき信を世に見んや
18.9又みづから義と意ひ人を輕むる或人にイエス此譬を語れり
18.10二人祈んとて殿に登りしが其一人はパリサイの人一人は税吏なりき
18.11パリサイの人たちて自ら如此いのれり神よ我は他の人の如く強索、不義、姦淫せず亦〔此|この〕税吏の如くにも有ざるを謝す
18.12われ七日間に二次斷食し又すべて獲ものの十分の一を獻たり
18.13税吏は遠に立て天をも仰ぎ見ず其胸を拊て神よ罪人なる我を憐み給と曰り
18.14我なんぢらに告ん此人は彼人よりは義と爲れて家に歸たり夫すべて自己を高る者は卑られ自己を卑す者は高らるべし
18.15イエスに按られんがため人々嬰孩を携來りしに弟子たち見て之を責たり
18.16イエス嬰孩を呼び弟子に曰けるは嬰孩を我に來せよ彼等を禁る勿れ神の國に居者は是の如き者なり
18.17誠に爾曹に告ん凡そ嬰孩の如に神の國を承ざる者は之に入ことを得ざる也
18.18或宰とふて曰けるは善師よ永生を嗣ために我なにを行べき乎
18.19イエス彼に曰けるは何ぞ我を善と稱や一の外に善者はなし即ち神なり
18.20誡は爾が知ところなり姦淫する勿れ殺なかれ竊なかれ妄證を立る勿れ爾の父と母とを敬へ
18.21答けるは是みな我幼より守れる者なり
18.22イエス之を聞て曰けるは爾なほ一を虧その所有を悉く售て貧者に施せ然ば天に於て財あらん而して來り我に從へ
18.23かれ大に富る者なりしかば之を聞て甚く憂たり
18.24イエスその甚く憂しを見て曰けるは富る者の神の國に入は如何に難かな
18.25富る者の神の國に入より駱駝の針の孔を穿は却て易し
18.26之を聞る者ども曰けるは然ば誰か救を受べき乎
18.27イエス曰けるは人の爲得ざる所は神の爲得ところ也
18.28ペテロ曰けるは我儕一切を捨て爾に從へり
18.29イエス彼等に曰けるは誠に爾曹に告ん凡そ神の國の爲に家あるひは父母あるひは兄弟あるひは妻あるひは兒女を捨る者は
18.30今世にて幾倍をうけ來世には永生を受ざる者なし
18.31イエス十二の弟子を携ひて之に曰けるは我儕エルサレムに上る人の子に就て〔預言者|預言者〕の録されし事はみな應らるべし
18.32夫人の子は異邦人に解され戲弄凌辱られ唾せらるべし
18.33且かれら鞭撲て之を殺さん又第三日に甦るべし
18.34弟子この語を少も達ず亦この言る事かれらに隱たり亦その語れる言を知ざりき
18.35イエス、エリコに近よれる時ある瞽者道の旁に坐して乞たりしが
18.36大衆の過を聞て此は何事ぞと曰ければ
18.37人々ナザレのイエスの過なりと告
18.38瞽者よばはり曰けるはダビデの裔イエスよ我を矜恤たまへ
18.39前だち行者ども默止と之を斥れども愈ダビデの裔よ我を矜恤たまへと呼れり
18.40イエス立止り彼を携來と命ず瞽者ちかよりければ
18.41イエス彼に問けるは爾われに何を爲れんと欲ふや答けるは主よ見なん言を欲ふ
18.42イエス彼に曰けるは見ことを受よ爾の信なんぢを救へり
18.43彼やがて見え神を榮てイエスに從ひぬ民みな之を見て神を讚美たり
19.1イエス、エリコに入て經行とき
19.2ザアカイと云る人あり税吏の長にて富る者なり
19.3イエスは如何なる人なるか見んと欲ども身量ひくければ大衆なるに因て見ことを得ず
19.4彼を見んとて趨ゆき桑樹に升れりイエスその道を通んとする故なり
19.5イエス此に來り仰て彼を見いひけるはザアカイよ速き下れ我今日かならず爾の家に宿らん
19.6彼いそぎ下り喜てイエスを迎たり
19.7衆人これを見てみな怨言いひけるは彼は往て罪ある人の客と爲れり
19.8ザアカイ起て主よ我所有の半を貧者に施さん若われ誣訟て人より收たる所あらば四倍にして之を償のふべし
19.9イエス彼に曰けるは今日この家すくはるることを得たり蓋この人もアブラハムの裔なれば也
19.10それ人の子は喪ひし者を尋て救ん爲に來れり
19.11衆人この言を聞る時また譬を設て曰り此はエルサレムに近かつ衆人神の國たたちに顯明るべしと意が故なり
19.12ある貴者みづから領地を受て歸んとて遠國へ往とき
19.13十人の僕を召て彼等に金十斤を予て曰けるは我來まで商賣せよ
19.14その國民かれを憾て後により使を遣し曰けるは我儕この人を王とする事を欲ず
19.15領地を受て歸し時おのおの商賣して幾何の利を得たるかを知んとて金を予おきたる僕等を召と命じぬ
19.16初の一人きたりて曰けるは主よ爾の一斤は十斤の利を得たり
19.17主人いひけるは兪善僕よ爾は少者に忠なれば十の邑を宰どるべし
19.18また次の一人きたりて曰けるは主よ爾の一斤は五斤の利を得たり
19.19主人曰けるは爾も五の邑を宰どるべし
19.20また一人きたりて曰けるは主よ爾の一斤は此に在われ手巾に裹て藏置たりき
19.21蓋なんぢ嚴人なるが故に我おそれたり爾置ざる者をとり播ざる者をかる人なればなり
19.22主人いひけるは惡僕よ我なんぢの口に因て爾を鞫べし爾われは嚴者にて置ざる者を取まかざる者を穫と知
19.23然に何ぞ我來るとき本と利を得んが爲に我金を兌錢肆に預ざりしや
19.24遂に傍に立る者に曰けるは此人の一斤を取て十斤有る者に予よ
19.25衆人主人に曰けるは主よ其人すでに十斤を有り
19.26主人いひけるは我なんぢらに告ん夫有者は予られ不有者は其所有ものまでも取るべし
19.27且わが敵すなはち我支配を欲ざる者を此に曳來りて我前に誅せ
19.28イエス此事を言しのち衆人に先だちてエルサレムに上れり
19.29橄欖と名る山に靠るベテパゲとベタニヤに近づける時その弟子二人を遣さんとて曰けるは
19.30對面の村にゆけ彼處に入ば人の未だ乘ざる所の繋たる驢駒に遇べし其を解て牽來れ
19.31もし誰か爾曹に何ゆゑ解やと問者あらば如此こたふべし主の用なり
19.32遣されたる者往ければ果て其語たまへる如く遇ぬ
19.33かれら驢駒を解とき其主等かれらに何ぞ驢駒を解やと曰しかば
19.34答て主の用なりと曰て
19.35之をイエスに牽來り己が衣を驢駒に置イエスを其上に乘
19.36イエス往けるとき衆人その衣を路上に布り
19.37イエス、エルサレムに近づき橄欖山を下らんとする時大衆の弟子みな喜び其見し所の奇跡なる凡の能に因て大聲に神を讚て曰けるは
19.38主の名に託て來る王は福なり天に於ては和平に至上所には榮光あるべし
19.39大衆の中より或パリサイの人イエスに曰けるは師よ爾の弟子を責めよ
19.40彼等に答けるは我なんぢらに告ん此輩もし默止なば石號呼べし
19.41既に近づけるとき城中を見て之が爲に哭いひけるは
19.42もし爾だにも今この爾の日に於て爾の平安に關れる事を知ば福なるに今なんぢの目に隱たり
19.43爾の敵なんぢの周邊に壘を築き四方より圍攻
19.44爾と其中なる兒女を撃滅し石をも石の上に遺ざる日きたらん是なんぢ其眷顧たまふの時を知ざれば也
19.45イエス殿に入その中にて貿易せる者を逐出し
19.46彼等に曰けるは我室は祈禱の殿なりと録されたるに爾曹これを盜の巣と爲り
19.47イエス日々に殿にて教ふ祭司の長學者民の尊者ども彼を殺んと謀れども民みな心を傾けて其教を聽るが故に
19.48爲べき方を知ざりき
20.1一日イエス殿にて民を教へ福音を宣しに祭司の長學者長老共に近よりイエスに語て曰けるは
20.2何の權威を以て此事を行か誰この權威を予たるか我儕に告よ
20.3答て曰けるは我も一言なんぢらに問ん且われに告よ
20.4ヨハネのバプテスマは天よりか人よりか
20.5彼等たがひに曰けるは若天よりと云ば然ば何故かれを信ぜざる乎と曰ん
20.6もし人よりと云ば民みなヨハネを〔預言者|預言者〕と信ずれば我儕を石にて撃んとて
20.7遂に答て奚よりなるか知ずと曰り
20.8イエス彼等に曰けるは我も亦なにの權威を以て之を行かを爾曹に告じ
20.9即ち此譬を民に語れり或人葡萄圃をつくり農夫に租與て久しく他國へ往しが
20.10期いたりければ葡萄圃の果を受收ん爲に僕を農夫の所に遣しけるに農夫等これを撲たたきて徒く返せたり
20.11また他の僕を遣ししに之をも撲たたき辱しめて徒く返せたり
20.12又三次僕を遣ししに之をも傷けて逐出しければ
20.13葡萄圃の主曰けるは我いかに爲ん我愛子を遣すべし之を見ば恭敬ならん
20.14農夫ども之を見て互に議いひけるは此は嗣子なり率かれを殺さん業は我儕の所有になる可とて
20.15彼を葡萄圃の外に出して殺せり然ば葡萄圃の主いかに彼等を處べき乎
20.16かれ來て此農夫等を滅し葡萄圃を他人に託べし人々これを聞て曰けるは然は有ざれ
20.17イエス彼等を見て曰けるは匠人の棄たる石是こそ屋隅の首石となれと録されしは何ぞや
20.18此石の上に墮るものは壞この石上に墮れば其もの碎るべし
20.19祭司の長學者等その己を指て此譬を語たるを知この時イエスを執へんと爲しかども民を畏たり
20.20即ち之を窺ひその言を取て方伯の政事の權威に解さんとして自ら義人と僞れる間者を遣せり
20.21就てイエスに問けるは師よ我儕なんぢの言ところ教るところ正くかつ偏らず誠を以て神の道を教るを知
20.22われら税をカイザルに納るは宜や否
20.23イエスその詭譎なるを知て曰けるは何ぞ我を試るや
20.24デナリを我に見せよ此像と號は誰なるか答てカイザルなりと曰
20.25イエス曰けるは然ばカイザルの物はカイザルに納め神の物は神に納よ
20.26かれら民の前に其言を執得ず且その答を奇と意て默然たり
20.27甦る事なしと言サドカイの人きたりてイエスに問けるは
20.28師よモーセ我儕に書遺は若人の兄弟妻あり子なくして死ば兄弟その妻を娶り子を生て其嗣を繼すべしと
20.29然ば七人の兄弟あらんに長子妻を娶り子なくして死
20.30第二の者この婦を娶り子なくして死
20.31第三も之を娶り七人同く之を娶り子なくして死
20.32終に婦も死たり
20.33然ば七人ともに此婦を妻とせし故に甦りたる時は誰の婦と爲べき乎
20.34イエス答て曰けるは此世の子は娶嫁ことあり
20.35彼世に入り死より復生に足ものは娶嫁ことなし
20.36是また死ること能ざるが故なり蓋天の使を侔く復生の子にて神の子なれば也
20.37さて死し者の甦ることに就てはモーセ棘中の篇に主をアブラハムの神イサクの神ヤコブの神と稱て之を明白せり
20.38それ神は死たる者の神に非ず生る者の神なり蓋神の前には皆生る者なれば也
20.39その學者等こたへ曰けるは師よ善いへり
20.40此のち敢てイエスに問者なかりき
20.41イエス彼等に曰けるは人々如何なればキリストをダビデの裔と言や
20.42[42-43]ダビデ自ら詩の篇に主わが主に曰けるは我なんぢの敵を爾の足凳と爲まで我が右に坐すべしと言り
20.43*[42-43]ダビデ自ら詩の篇に主わが主に曰けるは我なんぢの敵を爾の足凳と爲まで我が右に坐すべしと言り
20.44然ばダビデ之を主と稱たれば如何で其裔ならん乎
20.45民みな之を聽る時その弟子にいひけるは
20.46長服を衣て遊行ことを好み市上にて人の問安會堂の高坐筵間の上坐を喜ぶ學者を愼めよ
20.47彼等は嫠婦の家を呑いつはりて長祈をなす審判るること尤も重し
21.1イエス目をあげ富る人々の捐輸を賽錢箱に投るを見る
21.2又ある貧き嫠婦のレプタ二を投たるを見て曰けるは
21.3われ誠に爾曹に告ん此貧き嫠は衆の者よりも多く投たり
21.4蓋かれらは皆その羨餘ある所より捐輸を神にささげ此婦は不足ところより其所有を盡く獻たれば也
21.5また或人殿の美石と奉納物を以て修飾ることを語しに
21.6イエス曰けるは爾曹の見る所のもの石を石の上にも遺ず圯さるる日いたらん
21.7彼等とふて曰けるは師よ何の時この事あらん正に此の事の來らん時は如何なる兆ある乎
21.8イエス曰けるは爾曹つつしみて惑さるる事なかれ蓋おほくの者わが名を冒きたり我はキリストなり時は近よれりと云ん然ど爾曹從ふ勿れ
21.9戰亂を聞とき懼るる勿れ此等の事の先に有は止を得ざること也然ど末期は未だ速ならず
21.10又曰けるは民は民をせめ國は國を攻
21.11各處に大なる地震、饑饉,疫病おこり且おそるべき事と大なる休徴天より現るべし
21.12此事より先に人々爾曹を執へ苦め會堂および獄に解し我名の爲に王および侯の前に曳往べし
21.13然ども爾曹が此事に遇は證と爲なり
21.14故に爾曹まづ何を對んと思慮まじき事を心に定よ
21.15蓋すべて爾曹に仇する者の辨駁また敵對ことを爲えざるべき口と智とを我なんぢらに賜へん
21.16又なんぢら父母、兄弟、親戚、朋友等より解され且汝らの中ある者は殺さるべし
21.17爾曹わが名の爲に人々に憾れん
21.18然ども爾曹の首髮一縷も喪はじ
21.19なんぢら忍耐て其生命を全うせよ
21.20なんぢら軍勢にエルサレムの圍るるを見なば其亡ちかきに在と知
21.21その時ユダヤに在者は山に逃よエルサレムに在者は出よ〔郷下|郷下〕に在者はエルサレムに入なかれ
21.22これ刑罰の日にして録されたる事のみな應らるる日なり
21.23其日には孕たる者と哺乳兒ある者は禍なる哉これ地に大なる災ありて怒この民に及べければ也
21.24人々刀刃に斃れ且とらはれて諸國に曳れエルサレムは異邦人の時滿るまでは異邦人に蹂躙さるべし
21.25また日月星に異象あるべし地にては諸國の人哀み海と波との漰湱に因て顛沛
21.26人々危懼つつ世界に來んとする事を俟憫むべし是天の勢ひ震動すべければ也
21.27其時人々は人の子の權威と大なる榮光を以て雲に乘來るを見るべし
21.28此等の事の成初ん時には起て爾曹の首を翹よ蓋なんぢらの贖ちかづけば也
21.29イエス譬を彼等に語けるは無花果と凡の樹を見よ
21.30既に萠ば爾曹これを見て自ら夏ははや近と知
21.31此の如く爾曹も此等の事成を見ば神の國の近を知
21.32誠に我なんぢらに告ん此事みな成までは此世は逝ざるべし
21.33天地は廢るべし然ども我言は廢る可らず
21.34爾曹みづからを愼よ恐くは飮食に耽り世事に累れ爾曹の心昏迷なりて慮よらざる時に此日なんぢらに臨ん
21.35これ機檻の如く遍く地の上に居者に臨むべし
21.36是故に爾曹儆醒て此臨んとする凡の事を避また人の子の前に立得やうに常に祈れ
21.37イエス晝は殿にて教へ夜は出て橄欖と云る山に宿ぬ
21.38民みな彼に聽んとて朝はやく殿に來れり
22.1逾越と云る除酵節近けり
22.2祭司の長學者たち如何してかイエスを殺さんと窺ふ但民を畏たり
22.3偖サタン十二の中のイスカリオテと稱るユダに入ぬ
22.4かれ祭司の長たちと殿司等に往如何してかイエスを付さんと語ければ
22.5彼等喜びて銀子を予んと約す
22.6ユダ諾ひて人々の居ざる時にイエスを付さんと機を窺へり
22.7さて除酵節なる逾越の羔を殺べき日になりければ
22.8イエス、ペテロとヨハネを遣さんとて曰けるは往て我儕が食せん爲に逾越を備よ
22.9かれら答けるは何處に之を備んと爲か
22.10イエス曰けるは城下に入ば水を盛たる瓶を挈る人なんぢらに遇べし其入ところの家に隨ひ往て
22.11家の主に師なんぢに云われ弟子と共に逾越を食すべき客房は何處に在やと曰
22.12然すれば彼そなへたる大なる樓房を示すべし其處に備よ
22.13彼等ゆきてイエスの曰給ひたる如く遇しかば逾越の備を爲り
22.14時至ければイエス食に就ぬ又使徒も共に就たり
22.15イエス彼等に曰けるは我苦難を受る先に爾曹と共に此逾越を食すること大に願へり
22.16われ爾曹に告ん之を神の國に成までは復これを食せじ
22.17イエス杯をとり謝して曰けるは之を取て互に分よ
22.18我なんぢらに告ん神の國の來るまでは葡萄より造しものを飮じ
22.19またパンをとり謝して擘かれらに予て曰けるは此は爾曹の爲に予るわが身體なり我を記ん爲に此を行
22.20また食してのち杯をとり曰けるは此杯は爾曹の爲に流す我血にして立る所の新約なり
22.21夫われを賣す者の手は我と共に案にあり
22.22人の子は果て定られたる如く逝ん然ども人の子を賣す人は禍なる哉
22.23かれら此事を爲ん者は誰なる乎と互に問ぬ
22.24また彼等の中にて長たる者は誰なるかと互の爭ありき
22.25イエス彼等に曰けるは異邦人の王は其民を支配す又その上に權を秉者は恩を施す者と稱らる
22.26然ども爾曹は如此すべからず爾曹のうち大なる者は幼が如く首たる者は役る者の如なるべし
22.27食に就る者と事る者と孰か大なる食に就る者ならずや然ども我は爾曹の中に事る者の如し
22.28わが患難に於て我と偕に居し者は爾曹なり
22.29我父の我に任ぜし如く我も爾曹に國を任ずべし
22.30これ爾曹わが國に於て我案に食飮し且位に坐してイスラエルの十二の支派を鞫んが爲也
22.31主また曰けるはシモンよシモンよサタン爾曹を索めて麥の如く簸んとす
22.32然ども爾の信仰絶ざるやう爾の爲に祈れり爾歸ん時其兄弟を堅せよ
22.33シモン曰けるは主よ我獄にまでに死にまでも爾と共に往んと心を定たり
22.34イエス曰けるはペテロ我なんぢに告ん今日鷄なかざる前に爾三次われを識ずと言ん
22.35又彼等に曰けるは我財布、旅袋、履をも帶せで爾曹を遣ししとき事の缺たること有しや答けるは無りき
22.36イエス彼等に曰けるは今は財布ある者は之をとれ旅袋ある者も亦然り此等を有ぬ者は衣服を賣て〔刃|刀〕を買べし
22.37我なんぢらに告ん彼は罪人の中に算られて有しと録されたる此言は我に於て應らるべし蓋われを指たる事は必ず成らる可れば也
22.38彼ら曰けるは主見よ此に二の刃ありイエス彼等に曰けるは足り
22.39イエス出て例の如く橄欖の山に往けるに其弟子も從へり
22.40其處に至て彼等に曰けるは誘惑に入ざるやう祈れ
22.41イエス彼等を離て石の投らるるほど隔り曲膝いのり曰けるは
22.42父よ若し聖旨に肯ば此杯を我より離ち給へ然ども我意に非ただ聖旨のままに成たまへ
22.43使者天より彼に現れて健壯を添ぬ
22.44イエス痛く哀み切に祈れり其汗は血の滴りの如く地に下たり
22.45祈禱より起て弟子に來り彼等が〔憂|憂〕て寢れるを見
22.46曰けるは何ぞ寢るや起て誘惑に入ざるやう祈れ
22.47如此いへるとき許多の人々きたる又十二の一人なるユダと云る者其に先ちてイエスに接吻せんと近よれり
22.48イエス曰けるはユダ爾は接吻をもて人の子を賣す乎
22.49その側に居たる者等事の及んとするを見て曰けるは主よ我儕〔刃|刀〕をもて撃べき乎
22.50其中の一人祭司の長僕を撃て其右の耳を削落せり
22.51イエス答て之を釋せと曰その耳に捫て醫したり
22.52イエス此に來し祭司の長殿司〔および|と〕長老等に曰けるは爾曹〔刃|刀〕と棒とを持來り強盜に當が如する乎
22.53われ日々に爾曹と偕に殿に在し時は我に手を措こと無りき然るに今は爾曹の時かつ黒暗の勢なり
22.54彼等イエスを執へ曳て祭司の長の家に携往りペテロ遙に從ひぬ
22.55人々中庭のうちに火を燒て同に坐しければペテロも其中に坐したり
22.56或婢かれが火の傍に坐せるを見これを熟視て曰けるは此人も彼と偕に在し
22.57ペテロ承ずして女よ我これを識ずと云り
22.58頃刻して他の人も亦見て曰けるは爾も彼等の一人なりペテロ曰けるは人よ我は然ず
22.59約そ一時ほど過て復ほかの人力言けるは誠に此人も彼と偕に在し是ガリラヤの人なれば也
22.60ペテロ曰けるは人よ我なんぢの言ところを識ずと言も果ず忽ち鷄鳴ぬ
22.61主身を回してペテロを見たまへり今日鷄なく前に三次われを識ずと言んと主の曰たまひし言をペテロ憶起し
22.62外へ出て痛く哭り
22.63イエスを護れる者ども嘲弄して彼を撲
22.64〔其|その〕目を掩ひ問て曰けるは爾を撲者は誰なるか預言せよ
22.65また多端の事を言て之を誚れり
22.66平旦に民の〔長老、祭司の長、學者|長老祭司の長學者〕ども集りてイエスを集議所に曳往て
22.67曰けるは爾もしキリストならば我儕に告よイエス曰けるは假令われ爾曹に言とも信ぜざるべし
22.68又たとひ我なんぢらに詰ども答ざるべし
22.69今より後人の子は大權ある神の右に坐せん
22.70皆いひけるは然ば爾は神の子なるかイエス曰けるは爾曹の言る如く我は是なり
22.71彼等いひけるは猶證據を須んや我儕みづから其口より聞り
23.1衆人みな起てイエスをピラトに携ゆき
23.2之を訟いひけるは我儕この人が民を惑し税をカイザルに納ることを禁み自ら王なるキリストと稱るを見たり
23.3ピラト、イエスに問て曰けるは爾はユダヤ人の王なるか答けるは爾が言る如し
23.4ピラト祭司の長等と衆人に曰けるは我この人に於て罪あるを見ず
23.5彼等ますます極力いひけるは彼はガリラヤより始て遍くユダヤを教へ此處まで來て民を亂せり
23.6ピラト、ガリラヤと聞て此人はガリラヤ人なる乎を問
23.7其ヘロデの所管なるを知て之をヘロデに遣る此時ヘロデもエルサレムに在しが
23.8イエスを見て甚だ喜べり蓋各樣なる彼が風聲を聞て久く之を見んことを欲ひ且その奇異なる事を見んと望ゐたれば也
23.9是故に多言を以て問けれどもイエス何をも答ざりき
23.10祭司の長學者たち側に立て切に彼を訟ぬ
23.11ヘロデその士卒と共に彼を藐視嘲弄して華服を衣せ復ピラトに遣れり
23.12ピラトとヘロデ先には仇たりしが當日たがひに親を爲り
23.13ピラト祭司の長有司および民等を呼あつめて
23.14曰けるは爾曹この人を我に携來りて民を亂したる者なると爲せり我なんぢらが訟る所を以て爾曹の前に鞫ども其罪あるを見ず
23.15ヘロデも亦然り爾曹をヘロデに遣せど彼もイエスが行事の死罪に當を見ざりき
23.16故にわれ笞ちて之を釋さん
23.17蓋この節期に必ず一人を釋こと有ばなり
23.18彼等みな一齊よばはりて此人を除きバラバを我儕に釋せと曰
23.19彼は城下に一揆を起し人を殺して獄に入し者なり
23.20故にピラトはイエスを釋さんと欲ひ復かれらに曰しかど
23.21かれら呼りて之を十字架に釘よ十字架に釘よと曰
23.22ピラト三次いひけるは彼は何の惡事を行しや我いまだ彼の死罪あるを見ざれば笞ちて釋さん
23.23彼等厲く聲をたてて彼を十字架に釘んと言募れり遂に彼等と祭司の長の聲勝たり
23.24ピラトその求の如く擬て
23.25彼等が求る一揆を起し人を殺して獄に入たる者を釋し其意に任せてイエスを付せり
23.26彼等イエスを曳往とき〔田間|田間〕より出來れるクレネのシモンと云る者を執へ其に十字架を負せてイエスに從はせたり
23.27衆の民および婦等も從ふ婦等は彼を哭哀めり
23.28イエス彼等を顧いひけるはエルサレムの女子よ我爲に哭なかれ惟おのれと己が子の爲に哭
23.29産ざる者いまだ孕ざるの胎いまだ哺せざるの乳は福なりと曰ん日きたらん
23.30當時人々山に對て我儕の上に壓よ陵に對て我儕を掩へと曰ん
23.31もし青木にさへ如此なさば枯木は如何せられん
23.32〔又|また〕他に二人の罪人をイエスと偕に死罪に處はんとて曳往り
23.33彼等クラニオンと云る所に至りて此にイエス及び罪人を十字架に釘ぬ一人をイエスの右一人をイエスの左に置
23.34イエス曰けるは父よ彼等を釋し給へ其爲ところを知ざるが故なり彼等鬮をしてイエスの衣服を分つ
23.35人々立てイエスを見たり有司も亦嘲哂ふて曰けるは彼は他人を救へり若キリスト神の選たる者ならば自己を救べし
23.36兵卒も亦かれを嘲弄し來り酢を予て
23.37爾もしユダヤ人の王ならば自己を救へと曰り
23.38又ギリシヤ、ロマ、ヘブルの文字にて此はユダヤ人の王なりと書る罪標を其上に建たり
23.39懸られたる罪人の一人イエスを譏て曰けるは爾もしキリストならば己と我儕を救へ
23.40他の一人こたへて彼を責め曰けるは爾おなじく審判を受ながら神を畏ざる乎
23.41我儕は當然なり行ことの報を受なれど此人は何も不是事は行ざりし也
23.42斯てイエスに曰けるは主よ爾國に來ん時我を憶たまへ
23.43イエス答けるは誠に我なんぢに告ん今日なんぢは我と偕に樂園に在べし
23.44時約そ十二時ごろより三時に至まで遍く地のうへ黒暗と爲れり
23.45日光くらみ殿の内の幔眞中より裂たり
23.46イエス大聲に呼り曰けるは父よ我靈を爾の手に託く如此いひて氣絶ゆ
23.47百夫の長この成し事を見て神を崇め曰けるは誠に此人は義人なりき
23.48之を觀んとて衆れる衆人みな此ありし事等を見て膺を拊て返れり
23.49イエスの相識の人々およびガリラヤより隨ひし婦ども遠く立て此等の事を見たり
23.50議員なるヨセフと云る善かつ義なる人あり
23.51彼等の評議と行爲を肯ばさりき是はユダヤのアリマタヤの邑の人にて神の國を慕る者なり
23.52此人ピラトに往イエスの屍を乞て
23.53之を取下し布にて裹いまだ人を葬し事なき石の鑿たる墓に置り
23.54此日は備節日なり且安息日近きぬ
23.55ガリラヤよりイエスと偕に來りし婦たち後に隨ひて其墓と屍の置れたる状を見たり
23.56彼等かへりて香物と香膏を備へ置て誡に從ひ安息日を休めり
24.1七日の首日の昧爽に此婦たち備置たる香物を携て墓に來しに他の婦等も偕に來れり
24.2彼等石の墓より轉たりしを見て
24.3入ければ主イエスの屍を見ず
24.4之が爲に躊躇をりしに輝ける衣服を着たる二人その旁に立り
24.5かれら懼て面を地に伏ければ其人いひけるは爾曹何ぞ死たる者の中に生たる者を尋るや
24.6[6-7]彼は此に在ず甦りたり彼ガリラヤに居しとき爾曹に語て人の子は必ず罪ある人の手に付され十字架に釘られ第三日に甦る可と云たりしを憶起よ
24.7*[6-7]彼は此に在ず甦りたり彼ガリラヤに居しとき爾曹に語て人の子は必ず罪ある人の手に付され十字架に釘られ第三日に甦る可と云たりしを憶起よ
24.8彼等その言を憶いで
24.9墓より歸て此等の事をみな十一の弟子と他の弟子等に告
24.10此等の事を使徒に告たる者はマグダラのマリア、ヨハンナ、ヤコブの母なるマリア又他に偕に在し婦等なり
24.11使徒その語れるを虚誕と意ひて信ぜず
24.12ペテロ起て趨り墓に往かがまりて枲布のかたよせ在を見て其遇ところの事を奇みつつ歸れり
24.13當日二人の弟子エルサレムより三里ばかり隔りたるヱマヲと云る村に往けるに
24.14互に此等の所遇どもを語あへり
24.15語り論ずる時にイエス自ら〔近づき|近き〕て偕に往り
24.16然ど彼等の目迷されて知ことを得ざりき
24.17イエス曰けるは爾曹行つつ互に哀み議論ことは何ぞ乎
24.18その一人のクレオパと云る者答けるは爾はエルサレムの旅人にして獨このごろ有し事を知ざる乎
24.19答けるは何事ぞや之に曰けるはナザレのイエスの事なり此人は神と萬民の前に於て行と言に大なる能ある〔預言者|預言者〕なりしが
24.20祭司の長と有司等かれを死罪に解して十字架に釘たり
24.21我儕イスラエルを贖はん者は此人なりと望たりし又それ而已ならず此等の事の成しより今日は第三日なるに
24.22我儕の中なる或婦たち我儕を驚駭せり彼等朝はやく墓に往
24.23その屍を見ずして來り天使あらはれて彼は甦れりと云るを見たりと告
24.24また我儕と偕に在し者も墓に往たるに婦の言る如にて且かれを見ざりき
24.25イエス曰けるは〔預言者|預言者〕の凡て言たる事を信ずる心の遲き愚なる者よ
24.26キリストは此等の難を受て其榮光に入べきに非や
24.27故にモーセより凡の〔預言者|預言者〕を始すべての聖書に於て己に就ての事は解明されたり
24.28彼等ゆく所の村に近きけるに彼ゆき過んと爲る状をなせば
24.29彼等勸め曰けるは日昃きて暮に及ぬ我儕と偕に止れ彼いりて止る
24.30共に食に就る時パンをとり謝して擘かれらに予ければ
24.31二人の者の目瞭かに爲て彼を識り又忽ち其目に見ず爲り
24.32彼等たがひに曰けるは途間にて我儕と語かつ聖書を解開ける時われらが心熱しに非ずや
24.33此時かれら起てエルサレムに歸り十一の弟子および同なる人の集り居に遇
24.34その人等の曰けるは主實に甦りシモンに現たり
24.35二人の者も途間にて所遇とパンを擘たまへるに因て識たる事を語れり
24.36此事を語れる時イエス自ら其中に立て曰けるは爾曹安かれ
24.37かれら駭き懼れて見ところの者を靈ならんと意り
24.38イエス曰けるは爾曹何ぞ駭くや何ぞ心に疑ひ起るや
24.39我手わが足を見て我なるを知われを摸て視よ靈は我が在を爾曹が見ごとく肉と骨は有ざる也
24.40如此いひて其手足を示せしに
24.41彼等喜べども猶信ぜず異める時にイエス此に食物ある乎と曰ければ
24.42炙たる魚と蜜房を予ふ
24.43之を取て其前に食せり
24.44また彼等に曰けるはモーセの例〔預言者|預言者〕の書また詩の篇に録されたる我事につく凡の言の必ず應べきは我もと爾曹と偕に在しとき語れる所なり
24.45是に於て聖書を悟せんとて其聽を啓き
24.46曰けるは已に斯録されたり如此キリストは苦難をうけ第三日に死より甦るべし
24.47又その名に託て悔改と赦罪はエルサレムより始まり萬國の民に宣傳られん
24.48爾曹は此等の事の證人なり
24.49我わが父の誓のものを爾曹に遺らん爾曹上より權を授らるる迄はエルサレムに留れ
24.50イエス彼等を導きベタニヤに至り手を擧て彼等を〔祝|祝〕す
24.51〔祝|祝〕する時かれらを離れ天に擧られたり
24.52彼等これを拜して甚く喜びエルサレムに歸り
24.53恆に殿に入て神を頌美また〔祝謝|祝謝〕せり〔アメン|アーメン〕